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第74話
※?視点
吸血鬼には三種類存在していた。
一つは普通の吸血鬼…これは一般的に何も混ざってない存在の事を言う、ちなみに王族の吸血鬼は普通と違い高貴な血を持ち、吸血で血を流す事は厳禁とされている。
二つ目はダンピール…人間と吸血鬼の血が混ざった気持ち悪い存在とされている、主に吸血鬼と人間の間で生まれた子供か吸血鬼に感染した人間がなる。
……最後は、稀に生まれる特殊の中の特殊……食用吸血鬼。
普通の吸血鬼は血が臭くて味は激マズだからどんなに飢えていても同族を襲う事はない。
しかし食用吸血鬼は普通の吸血鬼の中にたまに現れる遺伝されて生まれる存在。
血は人間同様甘くて美味だと言われている。
指で数えるほどしか存在しないから、その食用吸血鬼は必ず王族の餌として生きる運命とされている。
王族は普通の吸血鬼の主食である輸血パックでの食事は禁止されていて口にするのは新鮮な血のみとされている。
しかし人間を魔界になんて呼んだら混乱して面倒が起きる。
人間界に行き、血を吸う吸血鬼もいるが吸血鬼のほとんどが人間が嫌いで、殺して血を吸ってしまうと向こうで殺人事件だなんだと面倒な話になってしまうから、あまり行く吸血鬼はいない。
他の種族の魔族は論外…戦争になるかもしれないからね。
だから同族の、しかも美味の食用吸血鬼を用意する。
……僕も食用吸血鬼の一族に生まれた存在。
生まれてからずっと吸血鬼の次期王様の餌になる事を義務付けられていた。
ずっとずっとそう教育されてここまでやってきていた。
僕にとって次期王様の血となる事は生まれた意味だとすら思っていた。
そして6歳の頃、今の吸血鬼の王様により初めて僕は王子様の部屋に行き出会った。
……この世にこんなに美しいものがあるのか…それが僕の第一印象だった。
王子様は僕を見ずに部屋にしては僕の普通の家より少し大きいほどの広い空間で窓を見つめていた。
王子様の従者は王子様の隣にいたが、入り口で固まった僕を心配してか僕に近付き手を差し伸ばしてきた。
しかし、それをハエを叩くように叩き落としてゆっくり王子様の前に近付いた。
僕は王族の食用吸血鬼だ……従者ごときが触れていい筈はない。
王族の食用吸血鬼は生涯餌として大切にされる存在なんだから…
近くで見るとより綺麗な顔をしていてその真っ赤な瞳で僕の姿を写されて、恥ずかしそうに顔を赤くしながら見つめる。
「…あ、あの…王子様…僕の名前は桐生 蓮 です」
「………名前」
「は、はい!」
声もとても凛としていて美しかった。
これから同じお屋敷で一番近くにいる事になるんだ、こんな事で恥ずかしがってどうするんだと自分に言い聞かせる。
ついついそのお姿が眩しくて目を逸らしてしまったから、再び王子様の方に顔を向ける。
今度は目が離せなくなっていた。
うっとりした顔で王子様を見ると王子様はこちらを一度も振り返らず言った。
その言葉は美しい顔とは真逆のものだった。
「…名前なんかいらねぇだろ…ただの餌の分際で喋んじゃねぇよ」
立っているだけの僕にも分かるほどにピリピリとした雰囲気に冷たい言葉だった。
しかし、僕にとっては言葉を交わした事が重要でとても嬉しく感じていた。
周りから見たらどう見えるだろうか…異常だろうか、それともただ恋をしている男にしか見えないだろうが…
そんな事はどうでもいい…生涯この方と共に居られるなら全てを捧げる覚悟だった。
………あの時までは…
彼は僕が体を差し出しても自ら血を飲もうとしなかった。
誰なのか分からないが黒ずくめの人が無理矢理王子様の口を開きやっと飲むぐらいだ。
吸血鬼にはどうしようもない禁断症状である飢えが来てしまうから飲まなくては無差別に人を襲う獣のようになってしまうから王子様は嫌々受け入れていた。
理由はなんであれ僕の血が彼の中に溶けていくと考えるだけで幸せな気持ちになった。
いつか、僕を愛してくれる日が必ずやって来る。
そう…思っていたが、彼と出会って数年後のある日彼は僕にこう告げた。
「……お前、もういらない」
「え……」
それは僕にとって死の宣告のように響いた。
何故いきなりそんな事を言い出したのか分からないが、王子様は半年前から可笑しかった事には気付いていた。
半年前、王子様が魔界を抜け出したと城中が騒ぎになり…数時間後に無事に見つかった。
しかし王子様は何を体験したのか分からないが変わってしまった。
いつものように何を考えてるのか分からなかったが、とても幸せそうにニコニコしながら従者に楽しそうに話す王子様。
……僕の大好きな王子様は何処に行ったの?なんで僕以外を見て笑うの?僕にはいつも無表情しか見せないのに…
友達のように話す従者にさえ怒りが湧いた。
従者が部屋を出てこっそり着いていき廊下の隅に引き込み、殺さない程度にいたぶった。
従者は王子様がいらないと言ったとはいえ、まだ僕の価値は変わらないから手を出せない事を知っていて廊下の隅で怒りをぶつけた。
そしてそれを王子様に見つかり僕は城を追い出された。
僕がいなきゃ飢えた時どうするんだろう。
いなくなって初めて僕の大切さが分かって僕を求める声が聞こえる気がした。
そう思うと自然と笑みが深くなる。
「…僕は貴方のもの…貴方だけのものだよ……だから貴方も僕のモノ」
彼が何処に行こうが追いかけて捕まえて僕しか見れないようにしてあげる。
……それを邪魔する奴は…殺していいよね?
待っててね、僕の王子様。
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