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第75話

※視点なし 「おい見つかったか!?」 「いえ、随分上手く隠れてるようで未だに不明です」 此処は姫とその信者達が集まる生徒会室。 定期的に行われる会議は決して甘いものではなかった。 そこの会長席に座る学は足を机の上に置いて不機嫌そうに無能な奴らを見渡していた。 ずっと吸血鬼の次期王を探しているというのに全く自分に会いに来ないのはどうしてか… そもそも向こうが自分を欲している筈なのに会いに来ないのか… そろそろ待つのも疲れてイライラが爆発しそうになる。 「もっとよく探せよ!!」 「姫様、机に立たれたら危ないですよ」 感極まり机に立って怒鳴ると副会長が心配そうな顔をする。 ドアの近くにはただ黙って見ている生徒会長の有栖がいた。 その瞳には何も写っていなくて、ただボーッと学達を見つめていた。 姫を愛してる魔物達は学を心配した顔で見ている。 しかし学にはどうでも良かった。 架院もそうだが、学は世界で一番強い権力者に愛されたいという願望がある。 全ては自分のモノだと…自分が愛されないなんて可笑しいと… 近くにいた書記に会長席にあった硬い置物を投げつけて机から降りる。 書記はモロにくらい、頭から血を流していたが学を怒る事はせず自分が悪いと思い謝り続けていた。 「絶対いる筈なんだ…絶対」 学は頭を抱えてぶつぶつと呟いていた。 担任には探すなと言われているから信者以外の奴らは協力するどころか危ないからと止められる。 こういう仕事は下僕の役目だと学は自分で探そうとしなかった。 何故そこまで次期王に執着するのか…自分の婚約者だからなのかと周りはそう思っていた。 でもそれだけではない、その原因は瑞樹にあった。 瑞樹が来る前はそんなに必死に探していなかった。 でも瑞樹がこの学院にやってきて、嫌われものの筈の瑞樹の周りには人がいて…自分じゃなくて瑞樹に……それがたまらなく屈辱的だった。 吸血鬼の次期王さえ見つかれば、二人の王候補に愛された姫として魅力的になるだろう。 瑞樹の周りにいる奴らもこちらに来るとそう考えている。 「……随分荒れてるな」 そこで場には不釣り合いな楽しそうな声が聞こえた。 此処には学親衛隊以外いない筈だが、聞いた事がない声に皆警戒して声がした入り口を見た。 そこには黒髪に腰まで長い三つ編みで赤い瞳の少年がドア付近の壁に寄りかかっていた。 制服はブラッドクラスだし、見知らぬ人物に周りは警戒していたが、学は爛々と少年に近付いた。 新しい自分の信者、しかも顔はそこそこ良いから歓迎していた。 それに少年は気付かれないようにニヤッと笑った。 「お前カッコイイな!!名前はなんて言うんだ!?」 「…俺?俺は雪村(ゆきむら)天真(てんま)……吸血鬼の次期王だ」 「…………え?」 その場にいる誰もが驚いて固まっていた。 その間抜けな反応に天真は予想以上だとクスクス笑った。 そして学の前で跪き手を取り手の甲に口付けた。 学を愛している信者達だが、そういう事をした事がなかった。 慣れてない事をされて学の顔は赤くなっていた。 周りの信者達はそれを面白くなさそうに見ていた。 「会いたかったよ、姫も俺に会いたかったんだろ?」 「…お、おう!よろしくな!!」 天真と学の間に甘い空気が流れているが、信者達は普通の信者が増えるならまだしも相手が相手だから手が出せずにいた。 顔がいいのとそれなりに強い事から親衛隊なんて出来て周りにちやほやされてきていた信者達だったが、ここでは皆がそうだから凡人になる。 特別な学に愛されるために必死になっていた。 その中で周りとの温度差が違う有栖はもう会議の目的が果たされたと思い一人で静かに生徒会室を後にした。 学は早速天真の腕に絡み付いて甘えていて天真も受け止めていた。 まるでそれは恋人同士のそれのようで信者達の嫉妬が溢れてくる。 「架院に劣るがお前もカッコイイから俺の婚約者として認めてやる!!」 「それは光栄だな、姫も可愛い顔してる」 不穏な空気が生徒会室に漂ってる事は、二人は知らなかった。 吸血鬼の次期王が現れた、そのビッグニュースはすぐに学院中に広まった。 現れたからといって架院のように神を崇めるようになるわけではない。 ただ遠くから学達の集団の真ん中にいる彼を眺めるだけだ。 彼が今何を考えているのか、それは本人にしか分からない。 廊下を歩く姿を見つめていた少年は小さく呟いた。 その声は誰に届く事もなく、彼らの足音で消えていった。

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