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第76話
※瑞樹視点
玲音が指輪がない今、狙われる事を心配していたが俺の心配は無用だった。
周りは俺なんかより、ある話題で持ちきりだった。
今朝、廊下を歩きながらとある集団が御披露目をしていた。
とある集団とは学兄さん達で御披露目はあの玲音と一緒にいた吸血鬼の次期王だった。
ここはマギカクラスの校舎なのに吸血鬼を連れてきていいのか不安だったが、この学院の校則は学兄さんの前だと無意味になる事が分かった。
俺と英次も廊下に出て学兄さん達を見つめていたら一瞬だけ学兄さんと目が合った。
ニヤッと一瞬だけ笑われて、すぐに吸血鬼の次期王と会話を続けていた。
何故笑われたのか分からないが、英次がもう興味がなくなり俺を引っ張って教室に入ったから考えるのは止めた。
放課後になり、今日のバンドの練習は玲音が一緒に行ってくれるらしく英次は部活だと校舎前で別れた。
すれ違いですぐに玲音が現れて、息を切らしていた。
「慌てなくてもいいんだぞ」
「だ、だって…瑞樹が心配で…」
「ありがとう、玲音」
今の俺は一人でどうにかなる力がないから、万が一を考えて用心するべきだろう。
いくら吸血鬼の次期王に注目が集まっても、興味がない奴も当然いるからな。
玲音と一緒に練習場である音楽室に向かって歩いた。
玲音は音楽とは無縁だったみたいで、ちょっとだけ興味があるようだ。
俺は何をするのか、どんな音楽を奏でるのかいろいろと聞いてきた。
説明をしながら歩いていたらすぐに音楽室の前に到着した。
ドアをノックして、中に入るともう全員集まっていて俺達の方に目線を向けた。
すると紅葉さんの兄である紅野さんが玲音を見て驚いて椅子から転げ落ちていた。
「ひぃぃ!!吸血鬼!!」
「え、あ…玲音は友人で」
「ごめんね、知らない吸血鬼だからお兄様びっくりしちゃって」
紅野さんが手を振って玲音を寄り付かせないようにしているから代わりに紅葉さんが謝っていた。
玲音は全く気にしていない様子で床を見つめていた。
なにかを探しているようにうろうろしていたから一瞬なんだろうと思っていたが、すぐに指輪を探しているんだと気付いた。
俺が昨日行った場所は伝えてある。
その中で俺が玲音達といなかった時を絞って探すと練習をしたこの場所しかない。
俺も床を見ると何をしているのか不思議そうな顔をした紅葉さんが首を傾げていた。
「瑞樹くん、何探してるの?」
「紅葉さん、ここら辺に指輪…落ちてなかった?」
「え…いつも来た時と帰る時に掃除してるから見てないよ」
紅葉さんが見ていないなら本当に知らないのかもしれない。
玲音は疑いの眼差しで紅葉さんを見るが、紅葉さんが嘘を付く理由がないから玲音に「帰り道に落ちてるかもしれないから探しとくよ」と言ったら玲音も探してくれると言ってくれた。
気を取り直そうと練習を始めるためにケースからギターを取り出すと、玲音は入り口付近で座って俺に手を振っていた。
何故か食い気味に紅葉さんに彼とはどういう関係だと聞かれて戸惑った。
友人と言ったと思うけど、恋人と言った方が良かっただろうか。
俺にとっての玲音は両方だからなんて言おうか悩むところだ。
「玲音は大切な人、それだけだよ」
「……それだけ」
紅葉さんはショックを受けたような顔をしていたが、何故そんな顔をするのか分からなかったが紅野さんから鬼のような顔をして睨まれたからそれが怖かった。
演奏は昨日のように上手くいかず、ぎこちないものになっていた。
今日は玲音もいるのに、俺が集中出来なかったせいだ。
しかし俺が謝るより前に紅葉さんが謝ってきた。
紅葉さんも集中出来なかったのだろう、気分転換しようと休憩する事になった。
玲音の隣に腰を降ろすと初めて来た玲音はなにがあったのか付いていけてなかった。
「どうしたの?いつもこんな感じ?」
「…いや、昨日はもっと自然と出来ていたんだけど…玲音にギター聞いてもらいたかったのに悪かったな」
「いいよ、瑞樹が見れただけで来た意味があったし!」
玲音はそう言ってくれて励まされた。
紅葉さんのせいだけじゃない、俺のせいでもあるんだ…次は頑張ろう…本番はもうすぐなんだ。
音楽室の奥の扉である準備室に行っていた紅葉さんが大きな紙袋を持って現れた。
皆それが何なのか分からず紅葉さんに注目すると嬉しそうに勿体ぶっていた。
先に痺れを切らしたのは玲音で「早くしてくれませんかねぇ」とヤジを飛ばしていた。
紅葉さんは玲音を指差して「もうレオちゃんはせっかちなんだからすぐに見せるったら」と言っていた。
まさかそんな事を言われると思っていなかった玲音は驚いて口を閉じるのを忘れていた。
「…れ、レオちゃんって誰?」
「だって瑞樹くんが玲音って言うからレオちゃん!可愛いでしょ!」
嬉しそうな紅葉さんに玲音は俺の後ろに隠れてしまった。
紅葉さんが「レオちゃん」と呼んでも反応しないように抵抗していた。
いつもの明るい紅葉さんに戻って良かった、俺も自然と笑みを見せる。
メンバーの人数分の紙袋を一人一人に手渡された。
重くはないが、しっかりしている重さを指先に感じる。
紅葉さんが確認していいと言っていたから紙袋の中を確認する。
「これ徹夜で作ったんだよ!はい!本番でこれ着てね♪」
ローズ祭で着る衣装が入っているようだった。
全員それぞれ微妙にデザインが違っているようで、紅葉さんは何でも出来るんだなーっと感心しながら自分の衣装を見る。
白い軍服のような衣装で胸元に青い薔薇が飾ってあった。
……青い薔薇。
なんだろう、この気持ち…心がざわつく。
玲音がなにか言う前に紅葉さんが近付いてきた。
「瑞樹くんをイメージして作ったの!!絶対似合うよ!」
「こんな平凡が何を着ても服に負けるだけだろ、そんな事より紅葉…お前の服が気になるんだが」
紅野さんに失礼な事を言われて、何故か俺じゃなくて玲音がムッとしていた。
本当の事だから反論せず玲音の怒りを静めていた。
紅葉さんは待ってましたと言わんばかりに皆に自分の衣装を広げて見せた。
それは俺達とは少々違くて、フリフリレースのスカートだった。
胸元には真っ赤な薔薇が飾ってあった。
……なんか、この衣装は紅葉さんしか似合わない感じがする…女装だから当たり前だけど…
紅葉さんはジッと期待に満ちたキラキラした瞳で俺を見ていて頬を赤くさせた。
「ねぇねぇ瑞樹くん!どうかな?どうかな?」
「うん、似合ってると思うよ」
紅葉さんはキャーキャーはしゃいでいて、玲音は俺の後ろに隠れて引いていた。
それより俺は自分の衣装の薔薇に触れた。
……何だか、懐かしい感じがする…とても大切で、忘れてはいけなかった思い出。
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