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暴君アルファの贈り物
「……アリス、いるのか?」
水樹は玄関に入るなり、妖 しげな気配に怪訝な顔つきになる。今日はクリスマスイブ。仕事をはやく済ませ、シャンパンを買うと飛ぶように帰ってきた。
ケーキと料理は用意するからな! と気負うアリスの姿がない。そのかわり、濃厚な花の香りが満ち溢れている。
リビングに姿はなく、左手奥の寝室から物音がして、水樹は暗闇を押し割って歩いた。
「ん、んっ、あ……」
艶声が部屋から漏れ、寝室のノブを回すと衣服が散乱し、瞳を潤ませて沁みこんだ甘い体臭に蹲 るアリスをみつける。
「アリス?」
「みずきぃ」
「どうした、具合悪いのか?」
「ちがう、んぅ……」
アリスはぱっと飛びついて馬乗りになり、水樹の服を剥ぎとった。前触れもなく口づけされ、貪られる。水樹の動悸が一気に早まり、全身が燃えるように火照ってしまう。
「くそ、煽るなよ!」
色香に満ちた嬌声が寝室に響き、乾いた音を鳴らして水樹は黒い嵐のような本能につき動かされる。
「どうしたんだよ、急に」
「みずき、み、ずき、すき、あ、あ、あー……」
声を張り上げるように名を呼び立てられ、さらに硬く怒張 は昂 ってしまう。後孔は膨れあがり、弛 んで飲みこんだ男根を絞 めて激しく欲情を誘っていた。
「噛んでいいか?」
「あ、あ、それは、だめ」
はたとアリスの動きが止まった。
「アリス?」
「門倉が運命の番だから」
アリスは途端にそそくさと身支度を整える。
「運命?」
「――だって、俺、オメガだもん」
意味がまるで分からない。一度奪われた記憶がかすめ、アリスの腕を掴み、水樹は焦る気持ちで引き寄せた。
「いぃってぇ! 水樹! なにするんだよ!」
眠りの沼から這い出ると、水樹は白い頸に咬 みついていた。アリスが噛みつきそうな目で睨んでいる。はっとして項 から唇を離した。
「……βでよかった」
「は? 喧嘩売ってんの? せっかく指輪を貰って喜んでんのに、歯形つけやがって!」
職場になんて言い訳すればいいんだよぉと、アリスは艶のある頬を膨らませる。どうやら水樹は酔って寝てしまったようだ。
愛しいβのアリス。
それは神がくれた水樹への贈り物だ。
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