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親衛隊モブの一日
銀縁の眼鏡を光らせ、仕立てのよい制服を正し、艶のある黒髪を整える。
華やいだ装いのオメガ達を通り抜けて、茂部 繁 は生徒会室に颯爽と歩を進めていく。
残り二日で学園も冬休み。学園もしんとした静謐 に満ちて、朝の澄んだ空気がモブの頬をさした。窓からは灰鼠色 の冬空がみえ、裸木 の梢 が寒空 に突き出している。
この学園には発情期に達したオメガは親衛隊を通して、F4αやほかのアルファへ身体を捧げる慣わしがあった。もちろん合意の上だ。
若くあおく荒ぶった欲を慰めてもらい、オメガの暴走を止める。相手も相性も踏まえて考えなければならない。その先陣を担っているのがモブだった。
よって親衛隊リーダーである茂部 の一日は多忙を極める。
朝早くに登校し、書記を兼ねている生徒会へ顔を出す。オメガ達の発情周期の一覧へ目を落とし、転校生の手配、進呈するオメガの選別、水樹達のグッズ販売や写真の選定、他にも雑務は尽きない。学園の行き先を洞見 し、平安を保たなければならないのだ。
ことしはアリスのせいで息をつく間もなく、目がまわるほど忙しかった。水樹と門倉がアリスのために仲違いを起こし、一時は学園に長い嵐が吹き荒れるとモブは覚悟した。アルファ四人の結束は乱れ、水樹は恋に溺れ、門倉もアルファとしての自覚を失い、オメガ達にも動揺が広がった。
二人は凄烈 な争いを極めると思いきや、あっさりと和解してモブは胸を撫で下ろしていた。
思い出したくもない記憶が蘇り、茂部は溜息を盛大に漏らして、眉間に不快の色を漂わせる。
(僕ですら、番などいないのに……)
候補すらいないのに、まんまと極上のアルファを手に入れた忌々しいベータ。学園のオメガ達の愛憎は狂い乱れている。あるオメガは毎晩ベータが絶滅するようにと呪術をかけているようだが、効果はなく間抜けな顔でアリスは登校してくる。
どうしたら、最上のアルファに愛されるのだろう。
希少種であるオメガを差し置いて、ベータが深く愛されるのは不可解だ。アルファの寵愛 がベータを包むのならば、オメガは全てに恩寵を与えなければならないのだろうか……。
「あらら、モブくんお悩み?」
「さ、西園寺さん! おはようございます」
生徒会室で書類をまとめていたモブに、西園寺が背後からにこやかに声をかけてきた。柔らかな髪は綺麗に撫でつけられ、柔和な笑みを口許に浮かべている。
「今日の報告はこれかな? いつもありがとうね」
副会長も兼ねている西園寺は、モブの脇にあった書類を手に取って視線を巡らせる。西園寺は、必ず朝早くに生徒会室に寄って声をかけてくれる心優しいアルファだ。
「あの、西園寺さん……」
「ん? どうしたの?」
「ベータってそんなに魅力的でしょうか?」
「んー、どうだろうね。愛する人ならどんなバースも関係ないんじゃないかな。あ、悪いけど急ぐから先にいくね」
西園寺は謎のような微笑を唇に漂わせ、書類を鞄に入れると一足先に教室へ戻っていく。かの西園寺も雅也に夢中なのは、親衛隊モブだけが知覚していた。
「おーい、カ○メロ!」
おぼつかない足取りで教室へ戻ろうとすると、後ろから鼻にかかった甘えた声がした。振り返ると、金髪の如月 が馴々しく肩に手をかけてきた。
「カリ○ロって呼ぶのやめて下さい!」
「だって、あのベータのアリスとかカ○メロって呼んでたぜ?」
大きな円のレンズに、栗のような丸い頭。艶やかに光る鴉のような容姿にアリスは陰でモブをカリ○ロと呼んでいた。かの如月は精子製造散布機と呼ばれているのを如月本人は知らない。
「お前さ、先月のオメガ、あれは外れだわ。緩いし、濡れすぎで締まり悪すぎ」
「はあ? 如月さん、オメガをなんだと思ってるんですか? ましてやちゃんと避妊してくれないとクレームがきてますけど」
訳のわからない怒りがこみあげ、銀縁のフレームが反射して光る。まるでソープ嬢のクレームを朝から受けているようで、モブは砂を噛んだような不快な気持ちに襲われる。
「わりぃ、ラテックスのゴム切れてたんだわ! ピルあるからいいだろ?」
「アフターピルも副作用があるんです。いいですか? 性行為と言っても避妊をしなければちゃんと……」
「はいはい。で、今月はだれ?」
永遠と説法が続くのを知っているのか、如月は両手で耳に栓をして言う。
何をもって、こんな品がない奴がF4αなのだろう。水樹の王としての尊厳さ、西園寺の優美で洗練された物腰の柔らかさ、門倉の悠然とした凛々しさ、対して、如月はなにも持っていない。
「今月のオメガはいません」
「は?」
「クレームばかりきて、嫌なんですって。代わりに水樹さんや門倉さんに申し込みが殺到してます」
はぁあ? と、如月が声をあげる。本人は納得いかないようだ。それでも手を挙げるオメガはもういない。
「あの二人はオメガには勃たないだろ!? なんで? ねぇ、なんで? 極上の奴はいないの?」
極上である紫苑をさすがに進呈はできない。西園寺の弟であり、紫苑は門倉に恋していて二人に闇討ちにされる。
「……いません」
「ちぇ、じぁ、カ○メロ、おまえでいいや」
「は?」
「仕込んでやるよ、カリメ○」
手首を掴まれたモブは陽光が射し込む廊下を引き摺られ、傍の資料室に連れ込まれた。
「……っ」
いきり勃つ魔羅 を長い舌で丁寧に舐めとり、赤黒く脈打つ血管を小さな唇で吸うとびくびくと雄は揺れ動いた。
「あの、早くイッてくれません? 一限目が間に合いそうにないので……」
「カリメ○、おまえ上手すぎっ、あっ……」
如月は眉を寄せて、苦悶の表情で悶える。吸われて、喉で締めあげながらリズミカルに扱いていく。テクは鶯谷のソープ穣より格別に上手い。
「無理に耐えなくてもいいですから」
眼鏡を外すと、そこには超絶美形がいた。モブ本人は分かっていないが、絶世の美男子である。そしてオメガ特有の妖艶で淫靡な匂いに如月は甘い痺れとともに酔ってしまっていたのだ。
モブはズボンをためらいなく脱がし、鞄からローションを取り出す。
「如月さん、ちゃんと前戯してます? オメガは濡れるからといっても、ちゃんとほぐさないと傷つきますからね」
如月をうつ伏せにしてローションを手のひらにとり、よく温めて指先に嵌めたゴムにも塗りつけた。
「え、まって、まって!」
「黙って下さい。まずはご自分が被験者となって、オメガの気持ちを理解するべきです」
窄まりを丹念にほぐしながら、モブは技巧を凝らした蕩けそうなキスで如月の意識を和らげる。
「あ、あ、ん……」
「キスだけでこれだなんて、本当に貴方はアルファですか?」
如月は涎を垂らしながら、ひくつく孔でモブの指を締めてしまった。太腿はだらしなくひらいて、後孔は濡れそぼっている。
「……んぁ、あっ、あぁ……」
「締まりのない顔だ」
「やめろっ、あっ、あっ、あー……」
「前立腺ですよ。気持ちいいでしょ?」
如月は堕ちていく悦楽に頷いてしまう。これでは可愛いオメガだ。だらしなくローションが太腿を伝い、如月は嵌めて欲しいと疼いてモブの策に溺れてしまっている。
「……だめぇ、そこぉ」
「指だけではイケないかな?」
モブは口許を綻ばせて、妖艶な笑みを浮かべる。細い指を引き抜き、仕掛けるように如月の棒を扱くと如月は易々と精を吐き出した。
「お、おわるのか?」
「へぇ、欲しがりやさんですね」
「あ、あ、んっ……」
モブは艶髪をかきあげる。如月が視線を落とすと、オメガとは思えない巨大な怒張が屹立を立てていた。
「欲しいんですか?」
ひくつく窄まりは悦びを待ちかまえる。
「ひぃ……」
「ふふ、午前の授業は諦めようかな」
翌年から、モブが如月に頭を悩ませることはなくなり、またひとつ日課が増えてしまうこととなった。淫靡でぞくぞくする秘密めいた美しさが漏れることはない。
親衛隊リーダー茂部の一日は多忙極まりないのだ。
――完
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