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◇出逢い&可愛い…?*拓哉

 人に言ったら、自惚れと呆れられそうだけれど。  事実として、女に、そういう目で見られるのは、慣れていた。  他人から見ると、目立つし、イイ男、らしい。  街を歩いていて、何度もスカウトされた。高校の時にその話を受けて、モデルとして一時期活動した。一時はかなり雑誌に出て、結構な問い合わせがあったらしく、役者にならないかとか、散々芸能界を勧められた。  でも、そこまで興味が持てなかった。他の男性モデルとのライバル争いも、心底面倒だったし、そもそもそんなに人に見られる事が好きではなかったみたいで、モデルの仕事を始めてみてから、やらなきゃ良かったと後悔した。  普通に仕事について、普通に人生を送れればそれで良いと思ったので、芸能の世界とは完全に離別して、プログラマーの道を選んだ。  その入社式、だった。  急に頭上から、パラパラと降ってきた書類。  咄嗟に何が起こったのか、頭上を見上げたら。  バラまいた男の表情がツボにはまって。笑いを堪えるのが大変だった。  新入社員の代表挨拶を押し付けられ、嫌な気分で座っていたのだけれど、急に、気持ちが切り替わった。  笑いすぎてしまったせいか、そいつが、キッと視線を向けてきたのだけれど。間近で視線が合うと、一瞬で、ぽかん、という間抜けな顔になった。 「――――……」  すぐに視線を逸らされて。  ん?と疑問。  ――――……女に見つめられるのは慣れていた。  出会ってすぐにアプローチしてくる女も結構居るし、一目惚れされる時の視線も、何となく分かる位に慣れていて。  ……それを鬱陶しいとすら、思っていた。  女にされるのは慣れていたけれど。  いくら何でも、男に、ぽけっと見つめられたのは、初めてだった。  普通、男はそんな事しない。  むしろ、男はそれが本能なのか、警戒してくる。 「顔だけ」「ルックスだけ」  最初から、そんな否定的な目で見てくる奴も多い。  学校生活でも、アルバイトやモデル時代でも、女が勝手に言い寄ってきてるだけなのに、めちゃくちゃ煙たがられたっけ。正直、女絡みになると、男には嫌な記憶しかない。  もし仮に、男がオレの事を敵視せずに、「イイ男」と認めたとしても。  そんな風に素直に、ぽけーーと見つめてきたりする男なんて、当然ながら、今まで居なかった。  女だったら、まさに、「一目惚れしました」というような視線。  そんな表情で見つめられたら、もう女ですらウザイと思ってるのに。  それが男だった訳で、それはもう、心底ウザイ……はずだったのだけれど。  明らかに狼狽えてるそいつが、何だか面白くて。  書類を並べるのを手伝ってやってたら、その表情と仕草が。  ものすごくドキマギ不自然に狼狽えていて。  ……なんか、ちっちゃい生き物みたいで。  ――――……なんだか、ちょっと可愛く見えて。  そこまで考えて、オレは一瞬、ん?と止まった。  可愛いって、何だ?  書類を整えて、ようやく落ち着いたみたいだった。  入社式が始まるのに私語をしている訳にもいかないので、無言で過ごしていたら、すぐに入社式が始まるアナウンスが流れた。  社長やら先輩やらの話を聞かされ、それから、新入社員代表の挨拶で名を呼ばれた。指名された時からこの上なく面倒だった。  正直そんなに仕事というものに意欲があった訳でもなく。ただコンピューターやプログラムを弄るのは比較的好きで、この会社が大手で、給料も良かったから選んだ位で。  だから適当に、普通なら言うであろう言葉を並び立てながら、壇上で話していた。  その途中で、ふ、と、会場を見渡した時。  オレが座っていた所がぽつんと空いていて、目に止まった。  そして、すぐにその隣に、「織田圭」。  他の連中が神妙な顔で聞いてる中。   多分「すっげー……」とでも、思ってるんじゃないだろうか。  そうとしか思えない表情で、何やら瞳をキラキラさせながら、織田は、まっすぐオレを見ていた。  思わず、笑みが漏れそうになってしまって、慌てて顔を引き締めた。  何故だかちょっといい気分になり、途中からやる気を含ませた挨拶に変えて、無事挨拶を終えて、席に戻った。  間もなく入社式が終わって、そのまま退出させられてお開きになった。  促されるままに会場を出て、いくつかのエレベーターに別れて1階に降りる間に、織田とは離れてしまった。  少し、話をしてみたかった。  そんな風に自分が思うのが珍しい事は、誰よりも自分が知っている。  家に帰ってからも、何故か、織田の顔が浮かんで、不思議だった。  何か。  ……面白かったな、あいつ。  ――――…………可愛かった?  …………てのは、違うか?  明日からの集合研修でまた会うよな。  つか。  何でこんなに思い出してんだか。  書類をざざーと流し終えた時の、顔。  ぽかん、とオレを見つめてた顔。うろたえて、じたばたしてる顔。    勝手によみがえってきて、その日、何度も、首を傾げた。    明日からの集合研修――――……。  ほとんど知ってる基礎からだって話だし。面倒くせえと思ってたけど。    ……何だか少し、楽しみになっていて、不思議だった。

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