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◇
「……すごい、なんか特別な感じがする」
「ん?」
「2人で浴衣、とか。 いつもと違うじゃん?」
「ん。そうだな」
「楽しーな?」
言葉通りものすごく楽しそうに、フワフワ笑いながら、見上げてくる織田に。そうだな、と頷きながら。
お前と居ると、今までしなかった事や、好きじゃなかった事までが、楽しすぎて。
――――……ほんと、やばい。
これで、織田に彼女出来たりして、織田がオレと居なくなったら。
オレ、どうすんのかな?
お前って、いつまで、オレを好きなんだろ。
どこで、吹っ切る、つもりなんだろ。
オレはその時――――……吹っ切れるかな。
「高瀬」
「――――……ん?」
「まだちょっと、考えてること、ある?」
じっと見つめてくる織田の、まっすぐな、瞳。
ほんと。……すぐバレるな。
ほんの少し、黙ってるだけなのに。
「オレさ、高瀬の事さ」
「……?」
「今まで知り合った奴の中で、一番――――……大事だからさ」
「――――……」
「……1人で辛いなら、オレで良かったら、なんでも聞くから。秘密厳守するし。どんな事でも、ちゃんと聞くから」
「――――……」
――――……つか。
何なの。お前。ほんとに……。
「――――……じゃあさ」
「……ん?」
「ずっと、オレと、居てくれる?」
「――――……」
一瞬、きょとん、とした顔をして。
それから、ものすごく、じー、とオレを見つめて。
「高瀬が良いなら、ずっと居るよ?」
クスクス笑いながら、織田が言う。
「じゃあずっとだけど」
「うん。いいよ」
即答してくるし。
そういや、織田って、きっと、分かってないよな、オレが好きな事。
織田が、オレを想うより、もっと、やばい位、好きな事。
何だか色々思う所はあるのだけれど。
一生懸命な顔でそんな事言ってくれる織田が。
何か、どうしても可愛くて。
「じゃあ、考えといて。オレとずっと居れるか」
「……? うん。居れるよ?」
「……ちゃんと考えといて」
「――――……??」
不思議そうな顔をしながらも、わかった、と頷く。
ふ、と笑ってしまう。
ほんと。可愛いな、お前。
「なあ、織田、あそこ。見える? 神社ののぼり。赤い旗」
気持ちを切り替えるために、わざと明るくそう言った。
え? と顔を上げた織田は、見つけた途端に笑顔になった。
「見える。浴衣の子も多くなってきたね」
まわりの人たちを見て、織田がそう言ってから。
ふと、見上げてくる。
「でもやっぱ、高瀬は目立つ」
クスクス笑って、織田が言う。
「男2人で浴衣着てるからじゃねえ?」
「え。着ない?」
「オレ初だけど着るの」
「オレ結構地元の祭り、浴衣着せられてたから、抵抗無くて。高校とか大学ん時も母さんが用意するから、着てたんだよね」
「友達も?」
「うん、皆で着ようーて言ってさ」
「オレの友達誰も着なかった」
「あー。あれだね、誰か言い出さないと着ないのかもね。確かにそう言われてみると、周りの男はあんまり着てなかったかも」
そんな風に言って、織田が笑う。
「結構、皆で浴衣着るから、目立つとかもあんま考えなくて着てたなー女の子は皆着てくるしさ。男も皆で着ようっとて各自用意して……よく考えたら皆買いに行ってたのかな。オレ、自分で買ったの初めて」
「オレ、多分浴衣は初めて。 子供ん時、甚平着させられてたのは写真で見たけど」
「……無理に着せちゃった?」
「んなこと無いよ。……なんか、引き締まるっつーか。気分いい」
即答すると、嬉しそうに笑う。
「良かった」
「あ、織田」
「ん?」
「神社で買うもんは、オレが払う」
「ん??」
「浴衣買ってもらったから」
「えー。お世話になってるからなのに」
「別にオレ、お世話してるつもりねえし。 楽しいから居るだけ」
「――――……」
きょとん、として。
その後、照れたように、でも嬉しそうに、ふわっと笑って。
「じゃあ――――……買ってもらお、かな」
「ん。何でもいーぞ。全部制覇する?」
「げげ。無理。ていうか、昼ご飯食べてそんな経ってない気もするね。ゆっくり回って、夕飯、祭りで食べる?」
「いーよ」
「祭りで飲むビールって、美味しーよねー」
話しながら、神社に近づくにつれ、交通整理をしている人が居て、車が通行止めになっていた。人はかなり多いけど、神社が広いし、車道も歩けるようになってるし、まだ早い時間だからか、そこまで混んでる印象も無い。
「暑いからかき氷食べたい」
「いーよ。ていうかかき氷の店が何個もあんな……」
「どこがいいか選ぼ―?」
楽しそうにキョロキョロしだす。
そう言えば。今気づいたけど。 オレ、祭り。あんま好きじゃなかったっけ。暑いし。人込み嫌いだし。過去何回か、誘われて付き合いで行った記憶はあるけど、特別好きでもなかった。
――――……楽しそうな織田と居ると。
ワクワクするというか。
織田と居ると、何でか急に、好きになるもの。 なんかまた、増えた気がする。
浴衣と祭り。
子供でもねえのに、今さら。と思いながらも。
何でか、自然と、笑んでしまう自分が、本当に不思議。
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