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◇
「彼、どれが似合うと思いますか?」
「そうですね」
何だか織田と店員が、めちゃくちゃ楽しそうにオレの浴衣を選び始める。
なんかこの2人、初対面と思えない位、「店員と客」とも思えない位、意気投合して、あれやこれやと合わせてくる。
「高瀬は? どれがいい?」
「織田が決めて」
「えー、どうしよう、こっちですかね?」
「そうですねえ、これかこれか……でもこちらもお似合いですよね」
「何でも似合うね、高瀬」
はいはい。
もう笑ってしまいながら、2人をちょっと見下ろしつつ。
ふと、下にあった濃い紺の浴衣が気になって、手に取る。
「何、それが良い?」
「そちらの濃紺も大変人気がありますよ」
「これ、織田に似合いそう」
「え、あ、オレ?」
「着てみて?」
「あ、うん。…じゃあ、お願いします」
店員に言いながら、織田が振り返る。並んでる浴衣の中から、一つ、手に取った。
「高瀬、この黒がいいな。似合うと思う」
「ん。いーよ。 じゃあオレ、これ着てみる」
2人で試着する事になって、
慣れない浴衣に戸惑いながら着終えて、鏡の前に立たされる。
「おー……」
そんな声を出しながら、織田が笑う。
「高瀬、めっちゃ似合う、カッコいいし! ね、店員さん」
「そうですね。 お客様もお似合いですよ?」
「え、そうですか? ありがとう~」
ほんとに初対面か?
2人のやり取りを見ながら、苦笑い。
「これって下駄とかは帯は別料金ですか?」
「いえいえ、全部セットですよ」
「え。なんか思ったより安い。そうなんだ。高瀬、これで祭り、行く?」
じー、と見上げてくる。
もう、NOなんて言う雰囲気では、絶対無い。
笑ってしまいながら、いいよ、と伝えると。
「やったー、じゃあ全部、下さい」
「このまま着ていかれるんですよね?」
「はい」
「でしたら、こちらの紙袋にお洋服や靴を入れて頂いて」
「はーい」
オレにも紙袋を渡されて、織田と一緒に、洋服を紙袋に入れる。靴もビニールに入れてから、一緒に中に入れた。
「駅のロッカーに入れちゃおうか。帰りに取りに来ればいいよね?」
「ん。いーよ」
ウキウキ言いながら、織田が立ち上がる。
「これ、財布とかスマホってどこに入れるんですか??」
「信玄袋という袋がありまして……こちらの巾着に入れると良いですよ」
「これもついてるんですか?」
「もうこのセットで、お楽しみいただけるようになってるので」
「へーすごいですねー」
……ほんと、楽しそう。
クスクス笑ってしまう。
結局ほんとに織田が全部支払ってしまって。
仲良くなりすぎの店員と、ちょっと名残惜しそうに別れつつ、2人で浴衣で歩き出す。
「わー、なんか、すごい、気分あがる」
「そーだな」
思ってたよりずっと。新鮮だし、ちょっと背筋が伸びる気分。
あと。
織田が、すごい似合うし。
「高瀬、めっちゃ似合うし目立つなー」
「ん?」
「すれ違う女の子の視線が、すごい飛んできてるけど」
「……オレだけにじゃないだろ?」
「高瀬にだよ。だって、すっごいカッコいいし」
「……ていうか、オレは織田の方が似合うと思うけど」
「え。そう? お世辞でも、高瀬に言われるのは嬉しい」
「お世辞じゃないよ。すげえ可愛いし」
あ、間違えた。
カッコイイ、て言うべきところだと、一瞬で思ったけれど。
「かわ――――……???」
オレが言い直す間もなく、瞬間的に、真っ赤になった織田。
「――――……かわ、いいって、なに……」
――――……何でそこで赤くなるかな……。
もう、頭ん中に、可愛いしか、出てこない。
「……すごく似合ってる、てこと」
かろうじて、言い直す。
「……可愛いとか恥ずかしいから、やめて」
織田が照れまくりでそんなこと言ってる。
――――……どうして、こんなに、可愛いかなあ……。ほんと。
抱き締めたいとか。
キス、したいとか。
なんかもう、オレ、普通に、思ってるかも……。
好きな奴の、浴衣姿って。
…………一歩間違えたら、やらしいとしか、思えないし。
その腰回り、触れて、抱き寄せたいとか。
そんなの、こんな無邪気に楽しそうな織田に、思っちゃダメだって、自分に言い聞かせようとするけど。でももはやその時点で思ってるって事で。
はあ。
ほんっとに、ヤバいなぁ、オレ。
無邪気に煽られてる感じ、
織田に気付いてもらって、ちょっと、ほんと、どーにかしてほしいけど。
わざとじゃないから、気づきようも無いよな。
やれやれと、こっちがため息をついてるのには気づかず、熱い熱いとパタパタ手で扇いでた織田は、しばらくしてやっと落ち着いたらしく。2人でまた、コインロッカーに向かって歩き始める。
それにしても、男2人で、浴衣着てると、ものすごい、目立つな。
確かに織田の言う通り、視線がものすごい飛んでくる。
「織田、もうお祭り向かう?」
「ん?」
「駅ビルに居るとすげえ目立つから。祭りに入った方が目立たなそう」
「うん、いーよ。ちょうど始まる頃かも」
楽しそうに笑う織田と、ロッカーに荷物を詰め込んで、神社に向かって歩き出した。
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