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「彼、どれが似合うと思いますか?」 「そうですね」  何だか織田と店員が、めちゃくちゃ楽しそうにオレの浴衣を選び始める。  なんかこの2人、初対面と思えない位、「店員と客」とも思えない位、意気投合して、あれやこれやと合わせてくる。 「高瀬は? どれがいい?」 「織田が決めて」 「えー、どうしよう、こっちですかね?」 「そうですねえ、これかこれか……でもこちらもお似合いですよね」 「何でも似合うね、高瀬」  はいはい。  もう笑ってしまいながら、2人をちょっと見下ろしつつ。  ふと、下にあった濃い紺の浴衣が気になって、手に取る。 「何、それが良い?」 「そちらの濃紺も大変人気がありますよ」 「これ、織田に似合いそう」 「え、あ、オレ?」 「着てみて?」 「あ、うん。…じゃあ、お願いします」  店員に言いながら、織田が振り返る。並んでる浴衣の中から、一つ、手に取った。 「高瀬、この黒がいいな。似合うと思う」 「ん。いーよ。 じゃあオレ、これ着てみる」  2人で試着する事になって、  慣れない浴衣に戸惑いながら着終えて、鏡の前に立たされる。 「おー……」  そんな声を出しながら、織田が笑う。 「高瀬、めっちゃ似合う、カッコいいし! ね、店員さん」 「そうですね。 お客様もお似合いですよ?」 「え、そうですか? ありがとう~」  ほんとに初対面か?  2人のやり取りを見ながら、苦笑い。 「これって下駄とかは帯は別料金ですか?」 「いえいえ、全部セットですよ」 「え。なんか思ったより安い。そうなんだ。高瀬、これで祭り、行く?」  じー、と見上げてくる。  もう、NOなんて言う雰囲気では、絶対無い。  笑ってしまいながら、いいよ、と伝えると。 「やったー、じゃあ全部、下さい」 「このまま着ていかれるんですよね?」 「はい」 「でしたら、こちらの紙袋にお洋服や靴を入れて頂いて」 「はーい」  オレにも紙袋を渡されて、織田と一緒に、洋服を紙袋に入れる。靴もビニールに入れてから、一緒に中に入れた。 「駅のロッカーに入れちゃおうか。帰りに取りに来ればいいよね?」 「ん。いーよ」  ウキウキ言いながら、織田が立ち上がる。   「これ、財布とかスマホってどこに入れるんですか??」 「信玄袋という袋がありまして……こちらの巾着に入れると良いですよ」 「これもついてるんですか?」 「もうこのセットで、お楽しみいただけるようになってるので」 「へーすごいですねー」  ……ほんと、楽しそう。  クスクス笑ってしまう。  結局ほんとに織田が全部支払ってしまって。  仲良くなりすぎの店員と、ちょっと名残惜しそうに別れつつ、2人で浴衣で歩き出す。 「わー、なんか、すごい、気分あがる」 「そーだな」  思ってたよりずっと。新鮮だし、ちょっと背筋が伸びる気分。  あと。  織田が、すごい似合うし。 「高瀬、めっちゃ似合うし目立つなー」 「ん?」 「すれ違う女の子の視線が、すごい飛んできてるけど」 「……オレだけにじゃないだろ?」 「高瀬にだよ。だって、すっごいカッコいいし」 「……ていうか、オレは織田の方が似合うと思うけど」 「え。そう? お世辞でも、高瀬に言われるのは嬉しい」 「お世辞じゃないよ。すげえ可愛いし」  あ、間違えた。  カッコイイ、て言うべきところだと、一瞬で思ったけれど。 「かわ――――……???」  オレが言い直す間もなく、瞬間的に、真っ赤になった織田。 「――――……かわ、いいって、なに……」  ――――……何でそこで赤くなるかな……。  もう、頭ん中に、可愛いしか、出てこない。 「……すごく似合ってる、てこと」  かろうじて、言い直す。 「……可愛いとか恥ずかしいから、やめて」  織田が照れまくりでそんなこと言ってる。  ――――……どうして、こんなに、可愛いかなあ……。ほんと。  抱き締めたいとか。  キス、したいとか。  なんかもう、オレ、普通に、思ってるかも……。  好きな奴の、浴衣姿って。  …………一歩間違えたら、やらしいとしか、思えないし。  その腰回り、触れて、抱き寄せたいとか。  そんなの、こんな無邪気に楽しそうな織田に、思っちゃダメだって、自分に言い聞かせようとするけど。でももはやその時点で思ってるって事で。  はあ。  ほんっとに、ヤバいなぁ、オレ。  無邪気に煽られてる感じ、  織田に気付いてもらって、ちょっと、ほんと、どーにかしてほしいけど。    わざとじゃないから、気づきようも無いよな。  やれやれと、こっちがため息をついてるのには気づかず、熱い熱いとパタパタ手で扇いでた織田は、しばらくしてやっと落ち着いたらしく。2人でまた、コインロッカーに向かって歩き始める。  それにしても、男2人で、浴衣着てると、ものすごい、目立つな。  確かに織田の言う通り、視線がものすごい飛んでくる。 「織田、もうお祭り向かう?」 「ん?」 「駅ビルに居るとすげえ目立つから。祭りに入った方が目立たなそう」 「うん、いーよ。ちょうど始まる頃かも」  楽しそうに笑う織田と、ロッカーに荷物を詰め込んで、神社に向かって歩き出した。

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