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 午前中は2人で家で映画を見た。昼を食べに駅まで出てきて、食べ終えて外に出た時。織田があるポスターに目を留めた。 「なー、高瀬」 「ん?」 「これ、行こー?」 「祭り?」 「うん。この近くの神社のお祭りだって」 「ふうん。いいよ。行こう」 「15時から夜までだって。まだ1時間位あるけど……この神社知ってる?」 「ん、分かる。歩いて、15分位かな」 「あ。高瀬、ちょっとこっち、来て?」 「ん?」  くいくい、と腕を引かれて。  ついていくと、織田は、エレベーターの前の、館内の案内を見てる。 「どした?」 「高瀬、オレ、ちょっとだけ見たいとこがある」  楽しそうに笑う織田に、いいよ、と答える。  そんな顔で笑ってるなら、ちょっととかじゃなくて、どこでもなんでも一緒に行くけど。と心の中で思いながら。 「――――……」  それにしても、予想外の所に連れてこられた。  ――――……着物屋??  この駅ビルに、入ってたんだと思う位、縁のない店だった。  と思ったら、織田は、中にとことこ入っていって、着物を来た店員さんに、こんにちわー、と話しかけた。  ほんと、すぐ話しかける。  織田らしくて、つい、くすっと笑ってしまう。  オレはむしろ、どの店に行っても1人で見たいし、話しかけないで欲しいんだけど。織田は、すぐ話し始める。ほんと感心する。 「浴衣って売ってますか?」 「ええ、ございますよ」 「いくらぐらいですか?」 「セットだと、今ですとセールになってるものなら5000円位からですね」 「あ、意外と安い。どんなのか見せてもらってもいいですか?」  浴衣、着たいのか。  ――――……祭りだから?  店員について歩きながら、織田が振り返って、高瀬も来て、と嬉しそうに笑う。あんまり嬉しそうなので、笑ってしまう。 「こちらは今とってもお買い得ですよ」  何点か、並べて見せてくれる。  浴衣の値段なんて分からないけれど――――……元値1万~3万位が安くなってるから、良い物なのかな。 「たぶん今日しか着ないかなと思うので、普通に着れたらいいんですけど」 「お安くなってますけど、物はいいものなので、今日だけと言わず、ずっと着ていただけますよ? 帯も、留めるだけのものも多いですし」  クスクス笑って、店員が織田に色々見せている。 「これって、今日、着せてもらって帰れますか?」 「ええ、大丈夫ですよ」 「ちょっと話すので、また声かけてもいいですか?」 「はい」  にこ、と笑って織田が言うと、店員が少し離れていく。すぐに織田がオレを振り返って、じっと見つめてくる。 「高瀬、一緒に着よ?」 「ん? オレも?」  織田が着たいんだと思ってた。 「1人で着てもつまんないし。いっつもお世話になってるから、オレ、買うから! 着て?」 「――――……浴衣着んの初かも。似合わねーかも」 「絶対高瀬似合うから。一緒に浴衣でお祭り行こ? 超夏っぽいじゃん?」 「んー……着てみて、似合うなら。 変だったら織田だけ着て?」 「高瀬が着て変な訳ないじゃん」  なんて妙な自信ありの言葉と共に嬉しそうに笑って、織田がまた店員を呼んでる。 「買うなら自分で買うから」  クスクス笑いながらオレがそう言うと。 「え、いいよ。いっつもご飯とかごちそうになってるし。払う払う」 「んー……」 「あと、高瀬と着たいって、オレの我儘だから、払わせて」 「――――……値段次第で。揃えた時、高かったら払うから」 「んー」  そこまで話してる間に店員がまた嬉しそうに近づいてきた。  もう買うんだろうなと、バレてるに違いない。  だって、織田、めちゃくちゃ嬉しそうだし。

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