29 / 235

「かせ? …高瀬??」 「……え?」 「わー、珍しい。高瀬がぼーとしてんの。聞こえてなかった? 呼んでたの」 「あ、悪い――――……」 「全然。オレよくあるし」 「今何て言ってた?」 「オレ、カフェオレがいいなあって言ってた」  食器を洗い終えた織田が、隣に並んで、オレを見上げてくる。 「ん、いいよ」  ――――……このまま。  嬉しそうに笑ってる、すぐ近くに居る織田に触れて……キスしたら。  どうなるんだろう。  今の織田は、オレを好きだと思うけど。  キスしたら――――……引かれるのかな……。 「高瀬?」 「――――……」 「あれ? 高瀬??」 「……あ、うん。 何?」 「どしたの?……なんか悩みでもある??」 「――――……無いよ、ごめん、ちょっとぼーとしてただけ」 「……悩んでるなら、オレでよければ聞くからね」 「――――……ん、ありがと」 「ほんとに、聞くよ?」  じっと、見つめてくる。  ――――……いつも近くで見つめあうと照れるのに。  多分、本気で心配してるから、そっちに気が回ってないんだろうな……。  はは。ほんと――――…… いい奴な、織田。  きっと誰の事でも、本気で心配する。   「高瀬? ほんとにどうし――――……」 「織田」 「うん?」 「少し――――……縋ってもいい?」 「縋る?? どういう意味? てか、うん、良い、よ?」  意味、分からなかったみたいだけど、いいよ、と言ってくれたのを良い事に。その肩に触れて。ぎゅ、と抱き締めてみた。 「え」  織田の顔は、ちょうどオレの肩くらいの所にあって。  顔、見られないように、両腕で軽く、抱き付く感じ。 「た、かせ??」 「――――……ちょっとだけこのままでいい……?」 「――――……」  何も、返事、しない。  やめた方がいいかな、と思って、離れようと手を解こうとした瞬間。  織田が、背中にぎゅ、と腕を回してきた。わざわざ離れて腕を回してたのに、ぎゅ、と密着されて、焦る。けど、織田がすぐ、一生懸命な感じで話し出して。オレは、動けなくなった。 「っ……良く分かんないけど――――……高瀬が落ち着くなら、いいよ。気が済むまでこうしてるから」 「――――……」 「……話も、聞くよ? ――――……オレ、ずーっと。高瀬に助けてもらってるし……一緒に居れて、楽しい、し……感謝してるし」 「――――……」 「だから、高瀬が困ってるなら、絶対助けるから」  織田の抱き付いてるのには、多分今は、何の意味もない。  何かオレが情緒不安定にでもなってて、人肌みたいなの求めてるとでも思ってるんだろうと思う。……好きで、とか。そんなんだとは思ってないから、なんか、すごい一生懸命な顔して、言ってるし。  普段なら、近寄っただけでも照れるのに、今は、違う顔してる。  ――――……はは。……もーほんと……可愛いなー。  織田をぎゅ、と抱き締めて。  しばらくそのまま。  ゆっくりと、手を離すと、織田もゆっくり、腕を解く。 「ありがと。――――……もう、大丈夫」 「……ほんとに?」 「うん。完全に復活した」 「――――……」  黙ったままオレを見つめて。  そして、織田はちょっと困ったような顔。 「高瀬が困ってるなら、ほんとになんでも、聞くから」 「ん。なんか……その気持ちだけで、元気んなった」 「……なら、良かった…………っ」  少しほっとしたように言いながら、織田、急に、真っ赤になった。 「ていうか――――…… 今の、めゃくちゃ恥ずかし……って今更だけど……っ」  ボボボ、と真っ赤になっていく織田に、ぷ、と笑ってしまう。 「つか笑うの無し! だって、恥ずかしいじゃん……っ」 「――――……嫌じゃ、ねえの?」 「……っっ嫌だったら嫌って言ってるし」 「――――……でもさ」 「オレ、高瀬がする事で、嫌だって思った事、いっこも無いけど……っ っでも今のは、ちょっと、恥ずかしかった……」  ちょっとじゃないかも……とか、ブツブツ言いながら、熱くなってる頬に、手の甲を当てて冷やしてる。  ……本当にオレ、お前が好きみたい。  抱き締めて、余計に思ってしまった。  抱き締めたら違うと思うかな、とも思ったのだけれど。  好きなの、さらに自覚しただけだった。    参ったなあ……。  やっと熱が引いてきたらしい織田の頬に、そっと触れてみた。 「え」  ポカン、と口を開けた織田が、また、一気に赤くなった。 「まだあっついな?」 「っっっ! 高瀬が恥ずかしい触り方したから、ますますじゃんっっ」  もうもうもう!!!  そんな感じで怒ってるけど。  可愛くて。  ふ、と笑って見つめてると、さらに照れていく織田に。  なんか益々触れたくなって。やばいなあ…と、思った。  

ともだちにシェアしよう!