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◇
「かせ? …高瀬??」
「……え?」
「わー、珍しい。高瀬がぼーとしてんの。聞こえてなかった? 呼んでたの」
「あ、悪い――――……」
「全然。オレよくあるし」
「今何て言ってた?」
「オレ、カフェオレがいいなあって言ってた」
食器を洗い終えた織田が、隣に並んで、オレを見上げてくる。
「ん、いいよ」
――――……このまま。
嬉しそうに笑ってる、すぐ近くに居る織田に触れて……キスしたら。
どうなるんだろう。
今の織田は、オレを好きだと思うけど。
キスしたら――――……引かれるのかな……。
「高瀬?」
「――――……」
「あれ? 高瀬??」
「……あ、うん。 何?」
「どしたの?……なんか悩みでもある??」
「――――……無いよ、ごめん、ちょっとぼーとしてただけ」
「……悩んでるなら、オレでよければ聞くからね」
「――――……ん、ありがと」
「ほんとに、聞くよ?」
じっと、見つめてくる。
――――……いつも近くで見つめあうと照れるのに。
多分、本気で心配してるから、そっちに気が回ってないんだろうな……。
はは。ほんと――――…… いい奴な、織田。
きっと誰の事でも、本気で心配する。
「高瀬? ほんとにどうし――――……」
「織田」
「うん?」
「少し――――……縋ってもいい?」
「縋る?? どういう意味? てか、うん、良い、よ?」
意味、分からなかったみたいだけど、いいよ、と言ってくれたのを良い事に。その肩に触れて。ぎゅ、と抱き締めてみた。
「え」
織田の顔は、ちょうどオレの肩くらいの所にあって。
顔、見られないように、両腕で軽く、抱き付く感じ。
「た、かせ??」
「――――……ちょっとだけこのままでいい……?」
「――――……」
何も、返事、しない。
やめた方がいいかな、と思って、離れようと手を解こうとした瞬間。
織田が、背中にぎゅ、と腕を回してきた。わざわざ離れて腕を回してたのに、ぎゅ、と密着されて、焦る。けど、織田がすぐ、一生懸命な感じで話し出して。オレは、動けなくなった。
「っ……良く分かんないけど――――……高瀬が落ち着くなら、いいよ。気が済むまでこうしてるから」
「――――……」
「……話も、聞くよ? ――――……オレ、ずーっと。高瀬に助けてもらってるし……一緒に居れて、楽しい、し……感謝してるし」
「――――……」
「だから、高瀬が困ってるなら、絶対助けるから」
織田の抱き付いてるのには、多分今は、何の意味もない。
何かオレが情緒不安定にでもなってて、人肌みたいなの求めてるとでも思ってるんだろうと思う。……好きで、とか。そんなんだとは思ってないから、なんか、すごい一生懸命な顔して、言ってるし。
普段なら、近寄っただけでも照れるのに、今は、違う顔してる。
――――……はは。……もーほんと……可愛いなー。
織田をぎゅ、と抱き締めて。
しばらくそのまま。
ゆっくりと、手を離すと、織田もゆっくり、腕を解く。
「ありがと。――――……もう、大丈夫」
「……ほんとに?」
「うん。完全に復活した」
「――――……」
黙ったままオレを見つめて。
そして、織田はちょっと困ったような顔。
「高瀬が困ってるなら、ほんとになんでも、聞くから」
「ん。なんか……その気持ちだけで、元気んなった」
「……なら、良かった…………っ」
少しほっとしたように言いながら、織田、急に、真っ赤になった。
「ていうか――――…… 今の、めゃくちゃ恥ずかし……って今更だけど……っ」
ボボボ、と真っ赤になっていく織田に、ぷ、と笑ってしまう。
「つか笑うの無し! だって、恥ずかしいじゃん……っ」
「――――……嫌じゃ、ねえの?」
「……っっ嫌だったら嫌って言ってるし」
「――――……でもさ」
「オレ、高瀬がする事で、嫌だって思った事、いっこも無いけど……っ
っでも今のは、ちょっと、恥ずかしかった……」
ちょっとじゃないかも……とか、ブツブツ言いながら、熱くなってる頬に、手の甲を当てて冷やしてる。
……本当にオレ、お前が好きみたい。
抱き締めて、余計に思ってしまった。
抱き締めたら違うと思うかな、とも思ったのだけれど。
好きなの、さらに自覚しただけだった。
参ったなあ……。
やっと熱が引いてきたらしい織田の頬に、そっと触れてみた。
「え」
ポカン、と口を開けた織田が、また、一気に赤くなった。
「まだあっついな?」
「っっっ! 高瀬が恥ずかしい触り方したから、ますますじゃんっっ」
もうもうもう!!!
そんな感じで怒ってるけど。
可愛くて。
ふ、と笑って見つめてると、さらに照れていく織田に。
なんか益々触れたくなって。やばいなあ…と、思った。
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