28 / 236

「あ! ゴキブリ嫌いとか」 「……好きじゃないけど」  ……好きな奴居んの? 「倒せないとか!」 「倒せるよ」 「……虫が嫌いとか」 「好きじゃねーけど……虫怖いとかはない」 「実は泳げないとか」 「泳げる」 「音痴とか」 「言われた事ないけど」 「運動できないとか」 「……出来なそう?」 「いや、出来そう。……足遅いとか」 「遅そう?」 「ううん。速そう……」  うーんうーんと、織田が考えてる。 「食べ物好き嫌い多いとか……あ、好き嫌いは、ないんだっけ。んー……えー……?」  織田がマジマジとオレを見つめてくる。 「ん?」 「何かカッコいいとこしか無いっておかしいでしょ?」  そんな風に言って、何やら膨らんでいる。 「何かあるでしょ、できない事」 「あると思うけど――――…… 今織田が言ったやつは出来るってだけで……」  苦笑い。  できない事かー……。ぱっと思いつかない。  ……適当に器用で、一通り普通には出来てしまうとか言ったら、すげえ膨らみそうだし。  できない事って何だろ……。 「あ」 「ん? 何かあった?」 「ああ。――――……オレ、圧倒的に織田より出来ない事ある」 「うん、何々??」  ……すげえ楽しそう。 「……周り、和ませること」 「――――……へ?」 「織田の近くに居ると、和むから」 「…………? 和む?」 「ん」  呆けてる織田が、なんか可愛くて、くす、と笑ってしまう。   「それって、良い意味?」 「当たり前。人に好かれるとか、そーいう事だよ」 「……ふーん……?」  オレがそう言うと、織田は、嬉しそうに、にっこり笑った。 「良く分かんないけど――――…… なんか嬉しいからいいや」  その後すぐに、ごちそうさま、と言って、織田が立ち上がる。 「オレ片づけるー」 「いいよ、一緒にやろ」 「でも作ってもらったから、オレやる」  やる気満々でスポンジを持ってるので、ふ、と笑ってしまう。 「じゃあ、オレはコーヒー淹れ直す。怖いの見ながら飲む?」 「うん……って、え。すぐ怖いの見るの?」 「え。見ないの?」 「心の準備が……」 「でも土曜だし、昼早く食べに出るなら早く見た方が良くないか?」 「……うん」 「織田が嫌なら、そもそもオレは見なくてもいいんだけど? とりあえずコーヒーは淹れとく」  クスクス笑いながら言うと、織田は食器を洗いながら、しばらくうーんと唸ってて。  それから、あは、と笑った。 「昼間だし、楽しいの見よう? 怖いのは、今度、夜見よー?」 「夜だと余計怖いんじゃねえの?」 「……適度なの選ぶから、大丈夫」 「……分かった」  笑ってしまいながら頷いて、コーヒーの準備をしながら、織田と話す。  ――――……1人なら、朝作るものは一緒だけど、黙って食べて、コーヒー飲んで、自分のペースで、ただゆっくりして。  前はそっちのが好きだったんだけど。  ――――……何だかなー……。  この出逢いが運命かなって思ってしまう位、心が、緩むっていうか。  ――――……反応全部が、愛しいというか。  もしこれが女だったら。  結婚、てものを、初めてしたいと、思ったかも、しれない。  ……別に、男のままでも、オレは良いけど。  ていうか。 「なー、高瀬ー、オレさあ、夏っぽいことしたいなー」 「何? 夏っぽいことって」 「うーん、よく分かんないけど。 ビアガーデンとか思ったんだけど、昨日も飲んだしなー……何がいいかなあ」    ――――……お前、もっと、オレの事好きになんないかな。  ずっと、オレの事が好きって。なんねーかな……。  今のままの、織田で、ずっと側に居てくれたら、いいのに。  楽しそうな織田を見ながら、そう思ってしまう。

ともだちにシェアしよう!