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◇
「あ! ゴキブリ嫌いとか」
「……好きじゃないけど」
……好きな奴居んの?
「倒せないとか!」
「倒せるよ」
「……虫が嫌いとか」
「好きじゃねーけど……虫怖いとかはない」
「実は泳げないとか」
「泳げる」
「音痴とか」
「言われた事ないけど」
「運動できないとか」
「……出来なそう?」
「いや、出来そう。……足遅いとか」
「遅そう?」
「ううん。速そう……」
うーんうーんと、織田が考えてる。
「食べ物好き嫌い多いとか……あ、好き嫌いは、ないんだっけ。んー……えー……?」
織田がマジマジとオレを見つめてくる。
「ん?」
「何かカッコいいとこしか無いっておかしいでしょ?」
そんな風に言って、何やら膨らんでいる。
「何かあるでしょ、できない事」
「あると思うけど――――…… 今織田が言ったやつは出来るってだけで……」
苦笑い。
できない事かー……。ぱっと思いつかない。
……適当に器用で、一通り普通には出来てしまうとか言ったら、すげえ膨らみそうだし。
できない事って何だろ……。
「あ」
「ん? 何かあった?」
「ああ。――――……オレ、圧倒的に織田より出来ない事ある」
「うん、何々??」
……すげえ楽しそう。
「……周り、和ませること」
「――――……へ?」
「織田の近くに居ると、和むから」
「…………? 和む?」
「ん」
呆けてる織田が、なんか可愛くて、くす、と笑ってしまう。
「それって、良い意味?」
「当たり前。人に好かれるとか、そーいう事だよ」
「……ふーん……?」
オレがそう言うと、織田は、嬉しそうに、にっこり笑った。
「良く分かんないけど――――…… なんか嬉しいからいいや」
その後すぐに、ごちそうさま、と言って、織田が立ち上がる。
「オレ片づけるー」
「いいよ、一緒にやろ」
「でも作ってもらったから、オレやる」
やる気満々でスポンジを持ってるので、ふ、と笑ってしまう。
「じゃあ、オレはコーヒー淹れ直す。怖いの見ながら飲む?」
「うん……って、え。すぐ怖いの見るの?」
「え。見ないの?」
「心の準備が……」
「でも土曜だし、昼早く食べに出るなら早く見た方が良くないか?」
「……うん」
「織田が嫌なら、そもそもオレは見なくてもいいんだけど? とりあえずコーヒーは淹れとく」
クスクス笑いながら言うと、織田は食器を洗いながら、しばらくうーんと唸ってて。
それから、あは、と笑った。
「昼間だし、楽しいの見よう? 怖いのは、今度、夜見よー?」
「夜だと余計怖いんじゃねえの?」
「……適度なの選ぶから、大丈夫」
「……分かった」
笑ってしまいながら頷いて、コーヒーの準備をしながら、織田と話す。
――――……1人なら、朝作るものは一緒だけど、黙って食べて、コーヒー飲んで、自分のペースで、ただゆっくりして。
前はそっちのが好きだったんだけど。
――――……何だかなー……。
この出逢いが運命かなって思ってしまう位、心が、緩むっていうか。
――――……反応全部が、愛しいというか。
もしこれが女だったら。
結婚、てものを、初めてしたいと、思ったかも、しれない。
……別に、男のままでも、オレは良いけど。
ていうか。
「なー、高瀬ー、オレさあ、夏っぽいことしたいなー」
「何? 夏っぽいことって」
「うーん、よく分かんないけど。 ビアガーデンとか思ったんだけど、昨日も飲んだしなー……何がいいかなあ」
――――……お前、もっと、オレの事好きになんないかな。
ずっと、オレの事が好きって。なんねーかな……。
今のままの、織田で、ずっと側に居てくれたら、いいのに。
楽しそうな織田を見ながら、そう思ってしまう。
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