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◇出社3
「なあ、織田? A社の分のスケジュールって、どうなってる?」
「――――……」
「織田?」
「――――……」
「織田って」
急にユサユサゆすられて、オレはびっくりして、その相手を見つめる。
「あ……先輩?」
「――――……あー……お前、ほんとヤバいな。 コーヒー行くぞ、来い」
ぐい、と引かれ、立ち上がらされる。
「え、先輩、オレこれやらないと……」
「どうせ全然やれてねーだろが、とりあえず、息抜きいくぞ」
ぐいぐい引かれて、歩かされる。
フロアを出た所で、ようやく手を離された。
「お前、さっきオレが話しかけてたの、知ってた?」
「え、いつですか?」
「ゆする前、声かけてたんだけど」
「……すみません……」
先輩が入れてくれたコーヒーを少し飲む。
「すみません、頑張ります……」
「んー…… 何か、嫌な事でもあった?」
「……嫌な事……って訳……じゃないんですけど……」
「けど?」
「――――……なんて、言ったらいいか……」
「……別に、無理に言えとは言わないけど。大丈夫なのか?」
「――――……今から頑張ります……」
「……おう」
先輩はぷ、と笑った。
「珍しい、お前がそんなぐだぐだしてるの。いつも超元気なのに」
「……すみません」
「めったにないし、なんか面白いから、許すけど……」
クスクス笑う太一先輩。
ああ、なんかこの人が指導者で良かったな、ほんと優しい。
優しい先輩に迷惑かけないように、頑張らないと。
心を決めて、コーヒーを飲みほした。
トイレに寄った先輩と別れて席に戻ると、高瀬がちら、と視線を投げてきた。
「……織田、なんか……大丈夫?」
「え。……な、なにが……?」
「……ごめん、なんか、色々パニックだろ」
「……大丈夫、だよ……」
「――――……ごめんな、答え急がないから、仕事の時は忘れていいよ」
「――――……うん」
……優しい。
ていうか、オレ、そんなに今、はた目から見てもおかしいのかな。
――――……うー、しっかりしろ。
仕事、ちゃんとしなきゃ。
これじゃいけないと思って。
なんとか、仕事だけはと、必死で頑張った。
けれど――――……。
呆けてる自分に、高瀬が気遣って話しかけてくるたびに、余計に、高瀬を意識してしまって。
火曜、水曜と、進む都度、とにかく、高瀬の顔をまっすぐに見られなくなっていった。
普通に、話しかけられても、うまく返事が返せない。
退社後の、高瀬からの電話にも出られなくて。
メッセージだけで、短く、「大丈夫」とだけ返す日々。
どうしたらいいか、分からなくて。
眠れない日々を過ごすと、余計に判断力が奪われて、悪循環に襲われることになった。
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