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◇織田不足*拓哉1

 金曜日。    今日は家に連れて帰る気で出社したのに、  もうなんか今日は朝からとことん避けられて。  隣で仕事してる時も、下手に話しかけたらまずそうな、緊張した顔してるし。  いつも一緒に食べてる昼も、結局今週は1回も一緒には取らなかった。  仕事の進捗次第だからたまには別のこともあるけど、オレが織田に合わせるから、普段はいつも一緒に食べてるのに。  なんか織田の混乱がひどくて。  昼まで誘ってしまうと落ち着いて食べれなそう、なんて遠慮してたら、結局1週間経ってしまった。  どう誘ったら今日連れて帰れるかなあ。  なんて思いながら仕事をしていたら。  織田に呼ばれた気がして振り返った瞬間。  反対側から太一先輩に呼ばれて、織田はそっちを向いてしまった。  ……聞こえてきたのは、太一の食事の誘いを受けてる会話。  ――――……まあ多分。  織田の態度が1週間ヤバかったから。先輩としては、話を聞こうと思っての事だろうなーと思って。まあ仕方ないかとも思いながら。  ……織田の事、連れて帰れないじゃんか……。  そう思いながら。 「――――……織田、さっき呼んだ?」  そう聞いたら。織田がすぐこっちを向いて。 「あ、の……」 「ん?」 「……あの、さ」 「うん?」  ……恥ずかしそう。  ――――……可愛い。  つい、ふ、と笑ってしまう。  ――――……結果的に、笑ってしまったのが良かったみたいで。  なんだかほっとした顔をした織田は。 「……夜、電話、して良い?」  と、聞いてきた。 「ん。――――……もちろん」  そう答えた。  電話じゃなくて、そのままうちに来ていいよ。と思ったけど。  ……今の織田がそれを喜ぶかどうかがちょっと分からなくて、やめておいた。  ――――……とりあえず話せたら。  土日会えるように持っていければいいけど。  織田と太一先輩は、割と早めに仕事を切り上げて帰って行った。  オレは、少し残業して、仕事を進めてから、家に帰った。  シャワーを浴びて、そんなに食欲もないし、蕎麦を茹でてそれで夕飯を済ませた。そこで、織田に、電話はいつでもいいよと伝えた。  もし織田が、電話してくるのが、この近くからだったら迎えに行こうかなと思って、部屋着じゃなくて普通に私服に着替えてしまった。  電話待ちなので何だか落ち着かず、スマホを持ってソファに座った。  少しテレビをつけたけど、何にも頭に入ってこないのですぐ消した。  織田、電話したいって言ってくれたって事は。  ――――……少し、落ち着いたのかな。  オレと一緒で、土日までこのままは嫌だと、思ったって事ならいいけど。  何か、完全に織田不足。  知り合ってから、こんなに絡まない事、なかった。  こんな、たかが5日間で、こんなに寂しいと感じるとか。  我ながら、意味が分からない。  でも。  織田不足は、実感してて。  なんだかすげえモヤモヤするし。  ――――……これで織田が、やっぱり男は無理だとか言ったら。  ……オレ、諦めてあげられるかな。  今まで、完全に去る者追わずで来たけど。  ――――……織田が去ったら、マジでどうしようか。  そう思った瞬間。  インターホンが鳴って。  出たら。  織田だった。  驚くのと、嬉しいのと。  ――――……大事な話だから、直接来たんだろうと思って、少し緊張する。

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