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◇ランチタイム*圭
やっとのことで、お昼時間になって。
高瀬と、会社から徒歩5分の所にあるショッピングセンターのレストラン街に来た。何食べようかと2人で歩いてる時、たまたまトイレの近くを通りかかって。オレはちょっと行ってくるね、と高瀬から離れた。
用を済ませて手を洗っていたら、高瀬がトイレに入ってきた。
「あれ?」
振り返った瞬間。ぐい、と腕を掴まれて、焦っている間に、個室に連れ込まれてしまった。
「え、たか」
「しー」
囁かれて。
口を噤んだ瞬間、高瀬の顔が近づいてきて。
「キス、させて」
「え」
「ごめん。こんなとこで。 ずーっと、キスしたくて。限界」
至近距離で、大好きな瞳が、オレを見つめる。
「いい?」
――――……良いって言うしか、選択肢、ないし。
……ていうか、オレだって、したいし。
唇が、重なって。
ぎゅ、と瞳を伏せる。
うわー。
なんかこんなところで。
人が来るかもしれないのに。
こんな狭い所で、こんな風に抱き締められて。
……わー、なんか、めちゃくちゃ興奮するー。
……やばいー……っ。
「……ふ……っ」
だめだ、声、出しちゃ。
でも。絡んだ舌が気持ち、よくて。
「……っは…………ン……」
結構な音量で、音楽がかかってるし。
ドアは開いた音はしてない、と思うし。……多分。
漏れる声が、少し、我慢できなくて。
「――――……っ……」
すっぽり 抱き込まれて、深くキスされて。
そのまま、キスが、続いている。
「……ん、……っ……」
すこし、顔を動かそうと、抵抗してみる。
だって、声が――――……出ちゃいそう。
「……っ」
僅かに離れた唇の間で。
「織田……」
「……っ」
囁かれて、また重なってくる。
「……っ……」
くらくら、する。
「……っ……」
ふ、と足から力が抜けるけれど、高瀬の腕が支えてくれてて。
完全に全部、任せてしまってるみたいな。
角度を変えられて、舌、奪われる。
「――――……ん、ふ……」
すこし目をあけて高瀬を見ると――――…… 伏せられた睫毛が目の前にあって。それすらかっこよすぎて、ドキドキしすぎて。
「……っんっ……」
声、やば――――……。
もう、そろそろ、抑えるの、むり、なんだけど……。
「……――――……っ」
オレの状態が分かったのか。
ゆっくり。高瀬が、キスを外してくれた。
キスされて。こんな、短時間で一気に熱くなった体を、ぎゅ、と抱き締められて。頭をナデナデされてしまう。
「――――……好きだよ、織田」
「……っ……」
囁かれても、息をひそめるだけで精一杯で、何も、返せない。
「すっげえ、好き……」
「……っ」
「――――……ごめんな。ここのトイレ、人来ないなーと思ったらつい……」
くす、と笑って。
「……オレを……ほんとに、殺す気、だよね……?」
もう絶対赤い顔で。心臓バクバクで、そう言うと。
一瞬黙った高瀬に、くす、と笑われて。
「……可愛いなー、織田……」
そんな風に言いながら、オレの頬にぷに、と触れてくる。
それからまた、ぎゅ、と抱き締められてしまう。
「――――……」
高瀬って……。
……高瀬って、こんなに、好きとか可愛いとか……
いつも言ってくれちゃう、んだな……。
……ていうか、ほんとに、もう、オレ、無理なんだけど。
ついていけないよー……。返せないよー……。
「……オレ、ほんとにお前、好き。――――……なんか、好きになっていいんだと思ったら……際限なくなってきた気がするんだけど。 困るな、これ。ヤバい……」
抱きしめたまま、そんな事をぶつぶつ言ってる高瀬に。
ほんと、こっちが、困る。
いや、嬉しいけど……。
……好き過ぎて、困る……。
「―――……顔、赤い」
のぞき込まれて、すり、と頬を撫でられる。
「……誰の、せい……」
「――――……昼飯いいから、ずっとキスしてよっかなー……」
「……オレ、午後の仕事、できなくなるからね、絶対」
「……別にオレはいいけど……」
クスクス笑いながら、頬にキスされる。
「……可愛くてたまんないんだけど、どーしたらいい?」
もちろんここは、人がいつくるか分からないトイレで。
なんかもう、ずーっと、超至近距離で、囁かれていて。
そろそろ爆発しそうなので。
「……っ……ご、はんに、行こっ」
「んー……分かったけど。とりあえず、顔赤いのだけ、可愛すぎるからどーにかして?」
「っっ……っもう、こんなに高瀬とくっついてる限り無理だから、もう先、出てて?」
「――――……ん、分かった」
くす、と笑った高瀬が、最後にまた軽いキスを頬にして。
「落ち着いたら、出てきて」
そう囁いて、ドアを開けて外を確認すると、大丈夫、と笑いながら、出ていった。鍵を中からすぐ閉めて。
はー、と息を吐く。
高瀬って、
高瀬って、
……付き合うと、こんな、なの?
……無理なんだけど。
こんなとこでキスされると、危うく、反応してしまいそうになるし、
こんなとこで、体、熱くなって、もうなんか、
高瀬の事しか、ますます考えられなくなるし。
無理なんだけどー!
もう、叫びたい。
あんなに好きとか、言ってくれると。
……すごく嬉しいけど……。
返せなくていいのかな。と、心配になったりして。
……でももう、言葉受けとめるだけで精一杯で。
一目惚れの相手と付き合うのって……仕事先も一緒って。
………こんな、精神修行してるみたいな感じになるのか。
――――……高瀬は、キスしてる時、めちゃくちゃ、男っぽくて。
……カッコよくて。
視線が向けられてるだけで、
もう、なんでも言う事聞きたくなってしまう。
「織田、出れるー?」
「――――……むり……」
外で高瀬が笑ってるのが分かる。
「大丈夫だから出といで」
ドアをこんこんされて、仕方なくドアを開ける。
「……ん、まあ、さっきよりはまし」
オレの顔を見て、クスクス笑う高瀬に。
「日中、外ですんの、禁止でいい……?」
と伝えたら、すっごい嫌そうな顔をされた。
「……まあ少しは我慢するけど。 たまには許して」
クスクス笑われて。頬に触れられて。
せっかく少し戻った顔の熱が、また上がりそうで。
オレは恨めし気に高瀬を見上げたのだけれど。
ん?と、笑まれて見つめられると。
自然と、嬉しくて、ついつい笑顔になってしまうあたり。
――――……もうオレ、どうしようもないなぁ、と、諦めて、しまった。
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