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◇やっと1日終了*圭 3

 月曜は一緒にご飯を食べに行った。  火曜から木曜は、お互い忙しくて。帰る時間もばらけてしまったから、夜は別々だった。  で、今日。やっと、金曜日。  定時の音楽が流れる。  終わったー。  やっと、今週の仕事、終わったーーー。  長かったよー。 「定時だな。織田、仕事終わりそう?」 「んー……終わりはしないですけど、終わらせることはできます」 「はは。来週に回して帰る?」 「どうしましょうか……先輩は?」 「オレちょっと渡と話したいんだけど、帰ってこないんだよなー……」  うーん。そうなんだよね。  高瀬と渡先輩が午後の途中から、打ち合わせで居なくなって、帰ってこない。  今日は高瀬の家に泊まりに行くから、出来たら合わせたいんだけど。  と思っていたら。ちょうど、高瀬と渡先輩が戻ってきた。 「あ。お帰りなさいー」  なんか、2人共疲れた感じで、ただいま、と言ってる。  ちょっとため息をつきつつ、持ってたファイルを机に置いてる姿だけでも、カッコイイ。  ――――……ワイシャツとネクタイ。  ここのフロアの男、全員同じカッコなのに。  ……どーして、高瀬はこんなにカッコいいんだ。  何なんだろう、良い匂いしそう。というか。 ……あ、実際、良い匂いだけど。  頭が溶けてそうな事を考えていた時。 「打ち合わせ何だった?」  太一先輩が渡先輩に聞いた。 「追加依頼。しかも結構面倒」  珍しく嫌そうに、渡先輩が言った。 「向こうの作業工程がちゃんと考えられてなかったらしくて、だいぶ変更入りそう」 「そっか。残業になりそう?」  太一先輩が聞くと、渡先輩が高瀬の顔を見た。 「高瀬、今日少し残れるなら、ある程度進めてく? その方が良さそうな気もする」  聞かれた高瀬の視線が、オレの所で、ぴたっと止まる。  うんうん、と頷いて、少し、笑って見せると。 「残れます」 「りょーかい。オレ、ちょっと一服してくる。お前もちょっと休んでな」 「はい」  高瀬は返事をして、椅子に座った。 「オレと織田は手伝うことある?」 「いや、今日はいいや。来週頼むかも」  太一先輩の言葉に、渡先輩が答える。 「じゃあ今日はオレ達は先に帰るか――――……高瀬、頑張れ」 「はい」 「じゃあな織田」  太一先輩が、渡先輩と一緒に部屋を出ていくのを、見送った後。  高瀬がオレを見つめた。 「ごめんな、織田」 「いいよ。謝んなくて。頑張って。オレ今日は帰るね? 明日高瀬ん家行くから、その事は後で電話しよ?」  そう言ってる間に、高瀬がカバンのポケットを探って。かと思うと何かを差し出された。  自然と右手を出したら、何かが乗せられた。 「……鍵?」 「オレんち、行ってて?」 「え」  手のひらに乗ってる鍵を、思わず見つめてしまう。  ――――……鍵、預けてもらえるのて……。  ……なんか恋人っぽい。  嬉しくて、高瀬を見上げると。 「……だって、オレ、今夜お前と一緒に居たいし」 「……っっ」  完全赤面。 「つか。そんな赤くなんないで。――――……キスしたいの我慢してんだから」  はー、と高瀬がため息をついてる。  オレは、手の中のカギを握った。 「じゃあ、先、帰ってるよ?」 「夕飯、何か買って帰る。腹減ってたら、何か買ってって、つまんでて?」 「うん」 「シャワー浴びたり、好きな事して過ごしてて良いよ。食べたり飲んだりも。全部自由にして」 「うん……ありがと」  優しいなあ。高瀬。  じーん、と浸ってると、高瀬のスマホが長く振動した。 「電話?」  画面を見て、んー、と固まってる高瀬に、なんとなくスマホに目を向けると、「絵奈」という名前が見えてしまった。 別に疑って覗いた訳では全然ないんだけれど。  見えてしまった女の子の名前に固まってると、高瀬がふ、と笑った。 「あ、これ、妹な」  あ。こないだ言ってた、妹か。  良かった、と何となくホッとしながら。  ……すっごい、カッコいいお兄ちゃんで、良いだろうなあ~。  なんて、思っていると。  高瀬が出ないまま、電話が切れた。 「……あれ、切れちゃったよ?」 「んー…… 仕事終わったらかけ直すからいい」 「いいの?」 「どーせ、彼氏とどーのこーの、友達がどーのっていう電話だから」 「そういう電話、よく来るの?」 「2.3か月に1回位かな」 「あ、結構あるね」  クスクス笑う。 「高瀬、お兄ちゃんなんだね」  そういえば、面倒見良いし、優しいし。  ……お兄ちゃん、と言われたら、そんな気がする。 「そろそろ帰るね?」  オレは立ち上がって、鍵を鞄にしまった。 「織田、後でな」 「うん」 「1、2時間で絶対帰るから」  そう言い切る高瀬に、うん、と笑う。 「待ってるね」  高瀬と別れて、フロアのドアを開ける。  閉める前に振り返ると、高瀬がこっちをまだ見ててくれたので、バイバイ、と手を振った。ふ、と笑って、片手をあげてくれるのを見ながらドアを閉めて、エレベーターに向かった。    一緒に帰って、ご飯行けないのは残念だけど。  先に、高瀬の家で待ってて良いって。  ……なんかすっごく楽しい。  鍵、預けてくれるの、すげー、嬉しいし。  ご機嫌で、高瀬のマンションに向かって、歩き出した。

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