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◇絵奈✳︎拓哉2

 駅の改札につくと、絵奈が振り返って、笑った。   「お兄ちゃん、ありがと、送ってくれて」 「ん。 今度はちゃんと繋がってから来いよ」 「もう分かったよう」  再三言ったので、絵奈はくすくす笑った。 「でも今日はおかげで、織田さんと会えたし」 「――――……」  絵奈が不意に、すごく楽しそうな顔をして、笑った。 「ねーお兄ちゃん、あたし、織田さんと結婚してあげようか?」 「は?」 「そしたら、お兄ちゃんと織田さん、兄弟だし。ずっと縁、繋がるよ」 「……バカ言ってんな」  呆れて苦笑い。絵奈の頭に手を置いて、くしゃくしゃ撫でる。 「そんな事しなくても、一緒に居るから」 「……ふーん……。って、結婚は冗談だけどさ。あ、でも織田さんなら、結婚したら幸せになれそうな気がするなー……」 「……お前、恋愛相談にきてたんだろ。 そっち、どーにかしろ」  絵奈はクスクス笑いだして、はーい、と頷いた。 「じゃ、帰るね、織田さんにありがとうって、伝えてねっ」 「ああ。気を付けて帰れよ」 「うん! お兄ちゃん、織田さんと仲良くねー」 「――――……」  そんな絵奈の言葉に、苦笑い。曖昧に頷く。  絵奈の姿が見えなくなるまで見送ってすぐに、夕飯を買いに店に向かった。 ◇ ◇ ◇  買い物を終えて、マンションに帰宅。 「織田―?」  玄関を開けて呼ぶけれど、出てこない。テレビの音がするから声が聞こえないのかなと思いつつ、買ってきた夕飯をキッチンに置いて、手を洗って部屋を見回すと。  ソファですやすや寝てる織田の姿。 「――――……」  そっと近づいてみるけれど、全然起きる気配はない。  無防備に、すやすや眠ってるの、超、可愛い。  くす、と思わず笑ってしまう。  テレビを消して、ベットから薄い毛布を持ってきて、かけてやった。  それから、シャワーをさっと浴びて戻るけれど、まだ寝てる。  ……可愛い。  このまま寝かせといてやりたくなってしまう。  でも、織田、飯食ってないしな……。  とりあえず――――…… 用意するか。  腕をまくって、用意を始める。  今週忙しかったから、織田も相当疲れたんだろうな。  酒も入ってないのに、あんなとこでスヤスヤ寝てて、全然起きないって、あんまり無い。  準備を終えて、織田に近づいたら、毛布を掛けた時からほぼ動いてない。相当ぐっすり寝てるな。  ……可愛いけど……仕方ない、起こすか。 「織田?」  顔をのぞき込む。  起きたらすぐ、キスしてやろう、なんて思いながら。  ……慌てふためく姿が可愛いので、ついつい、悪戯したくなる。 「織田、起きて」 「ん……」  ぼんやりした瞳が、うっすら開いて。  よっぽどぐっすり寝てたのか、ぼー、とオレを眺めてる。 「……たかせ……」  名を呼んだかと思うと、伸びてきた腕が、首に巻き付いた。  急にぎゅとしがみつかれて引き寄せられて、織田の上に倒れこみそうになる。咄嗟に体を支えようと、ソファに手をついた。瞬間。  重なってきた唇に、一瞬驚く。 「――――……」  毛布をかけてくるまって寝ていたせいか、めちゃくちゃあったかい織田の背に手をかけて支えて起こさせて、ぎゅ、と抱き締める。  触れるだけのキスがもどかしくなって、深く、唇を重ねた。

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