94 / 235

◇大好きすぎ*圭6

 食事を終えて、2人で片付け開始。  オレがスポンジで洗って、高瀬が水で流していく。 「あ、そうだ……絵奈ちゃんのさ?」 「ん?」  ふ、と見下ろされて、目を合わせる。 「淳くんって友達、知ってる?」 「……あー、知ってる。家にも来てたし。一番仲のいい男友達だろ?」 「その子に、オレにしとけって言われたんだって」 「――――……」  高瀬は、目を一瞬大きくして。 そのあと、ふうん……と笑って、また食器に目を落とした。 「……まあ、向こうはそうなるかなと思ってた」 「知ってたんだ?」 「……んー、あいつ、オレの事、じっと見るから」 「ん??」 「睨むみたいな? 家にそいつが来てる時もオレが居ると、絵奈が、お兄ちゃんお兄ちゃんってこっち来るからさ。絵奈が高校生の頃が一番オレに張り付いてたから……面白くなさそうだったの、覚えてる」 「あ、そうなんだ」  絵奈ちゃんを大好きな淳くんと。  気づかず、淳くんに彼氏の恋愛相談をする絵奈ちゃんと。  高瀬大好きで、兄にはりついてる絵奈ちゃん。  で、高瀬をじっと見てる淳くん。  ……ぷ。 すっごい、なんか、かみ合ってない感じ。 「まあ、そうなんだろうなとは思ってたけど……でも高校時代は何もなく終わってたし、大学入っても、絵奈は顔ばっかいい奴と付き合ってるし。もしかしたらこのまま、友達貫くのかとも思ってたけど」 「てかさ、淳くんてさ、絵奈ちゃんがあんまり普通普通言うから、どんだけ普通なんだろうと思って……」 「あ、写真見た?」 「うん、見せてもらった。……カッコいい子だよね、普通に」 「まあ……そうなんだけどな……絵奈が付き合う奴、モデルみたいな奴が多いから。それに比べると普通なんだよなきっと……訳のわかんね―基準だけど」 「高瀬が基準なんだって知ってる?」 「……あー……なんか話してて思った事はあったような……」 「うん、オレも話してて思ったよ。高瀬が基準てきついよねえ。なかなか勝てないもん」 「そう?」 「うん、そう」  クスクス笑いながら言うと、高瀬は完全に苦笑い。 「普通のオレじゃなくて、オレがモデルやってた頃の写真が基準ぽくて。その写真、絵奈持ってたし。……髪型とか服とかめっちゃセットしてもらって、かっこつけてるやつ。 メイクもしてるしさ」  それを聞いて、突然思ったのは、もう絵奈ちゃんの話ではなく。  ……めっちゃかっこつけてる、高瀬の、モデル時代の写真?  え。  ……それは。 「………」  先に洗い終わって、そのまま高瀬をじーーーっと見つめる。 「……? どした?」 「写真、見たい!」 「は?」 「モデルやってた頃の写真! 見せて?」 「――――……」  最後の食器を流し終わって、手を拭きながら、高瀬は苦笑い。 「……あー……今度な……」 「え、何で? 今見たい」 「……あんま好きじゃねーから」 「……絶対カッコいいのにー! 見たいー!」 「……じゃあ今度、マシな奴1枚探しとく。でもほとんど捨てたからな……」 「えええーなんでーー?」 「……別にやりたくてやった訳じゃなかったし。良い思い出ある訳でもないし」 「え。モデルって良い思い出じゃないの?」 「……ライバル争いきついし、華やかだけど面倒だし、オレ、そもそも見られるの好きじゃないみたいだし」 「え」  最後の所で、つい、固まってしまった。 「織田?どした?」 「……見られるの好きじゃないの?」  あんなに、今だって、色んな人が高瀬を見てるのに? 会社の女の子達もだし、外歩いてれば振り返る子もしょっちゅうで。  ………というか。  ……その子達よりも。えーと……。 「……オレ、すっごい、高瀬の事見てる……気がするんだけど」 「――――……」 「見られるの、嫌だったりする?」  しばし無言だった高瀬が、ぷっと吹き出して、口元を押さえてる。  その瞳がふと優しく細められて、どき、とした瞬間、伸びてきた両手に、両頬挟まれて、引き寄せられてしまった。 「――――……何言ってんの、織田……」 「……っ」 「……他人に見られまくるのが、嫌いっつったんだよ」 「――――……」 「お前に見られるのが嫌な訳ないじゃん」 「――――……っ」  例によって、一気に頬に血がのぼる。  ていうか、高瀬にこんな風に言われて、そうならない方がおかしいと思う。  なんで、高瀬の瞳は、こんな、キラキラしてるんだろ。  優しく緩むのが、好きでしょうがない。  初めて会った時も、吸い込まれそうなんて思ったけど――――……。 「分かった?」  そんな風に言われたら。  まっすぐ見つめ返して、頷くしか、できる事なんて、ない。 「……うん」  頷いたら。  愛しそうに、ふ、と笑んで。  そのまま、唇が、重なるまで。  大好きすぎる、瞳を、見つめていたけれど。  すぐに、深くなるキスに、ぎゅ、と、つむるしか、なかった。  愛しくてたまらなくて。  ぎゅ、と高瀬に抱き付いたら。  さらに抱きすくめられて。キスされた。

ともだちにシェアしよう!