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◇旅行*圭 1

「……きもちよすぎる……」  ――――……なんでオレが。  今、箱根の温泉に、浸かっているかと言うと。  今朝、高瀬に起こされて、「織田元気?」と聞かれて、ねぼけたまま「うん」と答えたら。用意されてたご飯を食べさせられ、着替えさせられ、車に乗せられて、あれよあれよという間に、連れてこられた、から。 「……高瀬、ここ、何? 気持ちよすぎるー……」  ぼーーー、としながらそう言うと、高瀬はぷっと笑った。 「――……オレがたまに来るの、この旅館」 「そうなんだ……」 「良いだろ?」 「……うん。すっごく良い」  旅館の雰囲気も、案内係の接客も、さっき食べたお昼ご飯も。  で、今浸かってるお風呂も。 「今までで一番いいかも……」 「良かった。オレが大学生の時に初めて来てから、ちょくちょく来てるんだ。結構融通が利いて、時間合わせてくれるし」 「――――……そうなんだ……何で今日連れてきてくれたの?」 「オレが結構好きなとこだからさ。休みにたまに来るから……お前が気に入ったら、これからは織田と来ようと思って」  ぱ、と顔をあげて、高瀬を見つめる。 「超、気に入った!」  言ったら、高瀬は、ふ、と嬉しそうに笑った。  どき。  ――――……ああ、なんか。  濡れた髪が、カッコイイ。  色っぽいなあ。 「なんとなくさ。今日は混んだとこ行くより、静かに織田と居たくて」 「――――……」  確かに。  ここ来る前に寄ってきた水族館、少しは人も居たけど、人気が無い方に進めば、ほぼ2人きりみたいな感じで。  すごいゆっくり回れて、楽しかった。  アザラシ可愛かったなー……。 「高瀬、1人の時も水族館いくの?」  言いながら、あ、そんな訳ないか、と思ったけど。  案の定、ぴた、と固まられ、超苦笑いをされてしまった。 「んな訳ない」 「……ですよね」  思わず敬語で答えると、高瀬はクスクス笑う。 「嫌いじゃねーけど、1人じゃ行かない。織田は好きそーだなーと思って」 「うん。好き。久しぶりに行った」  そっか、オレの為に連れてってくれたんだ。  高瀬が買ってくれた、アザラシのキーホルダーが超可愛かった。 「久しぶりだった?」 「うん。最後に行ったのは…… 去年の冬、かなあ」  言いながら、あ。前の彼女だ、と思って、曖昧に答えた。 「ふうん……」とだけ答えて、高瀬はそれ以上は聞いてこなかった。 「……なんか、不思議。昨日の夕方まで働いてて、結構遅く寝たのにさー。  午前は箱根の水族館に居て、こんな時間に温泉入ってるって」 「……楽しい?」 「うん。めちゃくちゃ楽しい。お風呂、誰も居ないってすごい」 「……ん」 「――――……!」  ちゅ。  急に、キスされて。 高瀬を見上げる。 「……誰も居ないとか言うから。 してほしいのかなーと思って」  ニヤと笑われて。  色っぽさに、どきん、と胸が弾む。 「……そんな、つもりで……言ってないよ」 「――――……もともと赤くなってんのに、もっと赤くなった」  クスクス笑って、すり、と頬を撫でられる。 「……部屋戻ろうか。続きする?」 「……っ」 「いつもと違うとこで、明るい部屋で、織田に触るのもいいなあー……」  ふ、と目を細められる。 「……っ……」  かああああああっ。  真っ赤になってると、高瀬がますます優しく笑う。   「でもな……行きたいとこあるから、やっぱり、夜まで我慢しようかな……」 「――――……っっ」  手が耳に触れてから、すり、と首筋をなぞっていく。  ぞく、として、首を竦める。 「――――……っやめ…… 触んないで……」 「ん?」 「……っ……反応しちゃう、だろっ」 「……いーよ、して」 「っ……どうやってここ出るんだよっもうっ」  ぷ、と笑って、高瀬の手がオレの髪に触れる。 「もう、さわんの禁止にするからっ……」  ぎゅ、と目をつむって、体を退くと。  高瀬は、「へえ」と、ますます面白そうに笑った。 「――――……禁止でも、触るけど……?」 「――――……っ」  その時、ドアが開いて、おじさんたちが3人現れた。急に騒がしくなって雰囲気が変わって、ほっとする。  反応してしまいそうだった体も、急に落ち着いた。  ……ああよかった。  高瀬が、隣でクスクス笑ってるけど。  ……何にも言わず、お風呂を出る事にした。 「温泉の後って、浴衣着てのんびりしたくなっちゃうの何でだろー」 「……オレも、浴衣着た織田に触りたいけど……」  こそ、と囁かれて、目を見開く。 「……もう……っ……たかせっ!!」   「はは、真っ赤……――――……まあ、それは後にする。とりあえず、洋服着て。外行くから」  ぽんぽん、と頭を撫でられて。  むー、と口を噤んだまま、服を着た。  もうもうもう。  エロいんだもん。誘い方が。触り方が。  ほんとにもう。    ――――……大好きだけど。  ああ、もう顔、あっつ。

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