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◇帰り道*拓哉

 あの後、温泉に入って朝食を取って、近くの公園を散歩したりしてから帰路についた。 「――――……」  朝から盛ってほんとごめんな、と思いながら。  隣でスヤスヤ寝てる織田の頭を撫でた。  昨日も寝かせなかったし。朝も、だし。  寝顔可愛いな。  ……まあ話せなくてちょっと、つまんねーけど。  もう今日はこのまま織田んちに荷物取りに行って、うちに連れ帰ろう。夕飯は外出ればいいか。あ。焼き鳥食べに連れてこ。  今日の予定をなんとなく決めながら、車を走らせる。  ――――……楽しかったな。  初めてあの旅館に行ったのは、大学生の時のグループ旅行で、誰かが、口コミがいいからと予約したのがきっかけ。一回で気に入って、その後何回か誰かを誘って行った。付き合ってた彼女を連れて行った事もあったけれど、途中からは1人で浸りたくなって、誘わなくなった。  なんとなく疲れた時や1人になりたい時に、予約が取れたらふらっと行って、温泉や食事に癒されて。観光地に寄るとかもなく、家から旅館まで、直行直帰。  そんな感じで、過ごしてた。  1人で行くのが一番快適で、良かったのだけれど。 「――――……」  1人で行くより、織田と一緒の方が、楽しかった。  ――――……つか。  ………そもそも水族館に行ってやろうかなとか。  ………イルミネーションがどうとか。  そんなの、そもそも柄じゃない。  今までのオレは、しなかったのに。  織田が、笑うのが、可愛すぎるからだなー……。  ――――…… 全部ツボすぎて。可愛すぎて。  ………ほんと。昔のオレを知ってる元カノとかが、今のオレを見たら。  絶対退くだろうな……。  なんて、浮かんで。  ――――……何考えてんだか、と自分に突っ込む。 「――――……たかせー……」  うーんうーん、となにやら唸ってる。  人の名前呼びながら、悪い夢でも見てんのか。  ぷ、と笑って。  面白いので、赤信号を良い事に、しかめっつらで 苦しんでるのを眺める。  何の夢だよ。  ……苦しんでるけど。  起こす? ねかせとく……?  もう信号が変わる。  ……ま、いいか。寝かせとくか。 「……たかせ……」  また呼ばれて。  最後に、織田の顔を見たら。  急に、ふわ、と微笑んで。  何やら、言葉にならない何かを、むにゃむにゃ言ってる。 「――――……」  ……は。  ――――…… くっ、と笑いがこみあげてきてしまった。  可愛すぎ、織田。  しかめっつらで、苦しんでる理由も知りたいけど。  笑った理由はもっと聞きたい。  ……多分覚えてないんだろうけど。  1人クスクス笑いながら。  かなり機嫌よく、車を発進させた。

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