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◇幸せモード*圭 3

 あれ?   高瀬が居ない。  ぼけっとして、少し目を離した隙に、高瀬が視界から消えていた。  女の子と消えた……訳じゃないよね。  うん、無い。ないないないない。 てか、仕事中だし。  いや、仕事中でなくても、うん、ないない。 「……織田、コピー止まってる」  急に真横から、大好きな声。  びくう!!と大きく震える自分の体。   うっわ、オレ、すごい不自然……。  ぷっと笑って、高瀬がコピーの終わった用紙を取って揃えてくれた。 「なにぼーっとしてんの?」  クスクス笑いながら、斜めに、オレを見つめてくる。 「――――……」  なんでもない、との意味を込めて、首を振る。  すると、ふーん、と笑って。 高瀬が、ぽん、とオレの肩をたたいた。 「これ、置いたら、休憩。コーヒー飲みにいこ?」 「え。 うんっ」  嬉しくなって、ぱっと笑顔になってしまう。  ふ、と笑顔を返される。 「織田、可愛い――――…… 早く、いこうぜ」  最初の一言はこそ、と囁かれた。  赤くなってしまいそうで。 俯く。  なんか――――…… もうほんとに、全部好きなんだけど。  優しく笑った顔も。  からかってるみたいな、笑顔も。 「先輩コピー終わったので、ちょっとコーヒー飲んできます」 「OK。いってらっしゃい」  太一先輩に一声かけて、机に書類を置くと、ドアの所で待ってる高瀬のもとに急ぐ。休憩室につくと、ちょうど空いてて、人もまばら。 「織田、座ってていいよ。コーヒー入れるから」  こんなふうに言ってくれるのを遠慮する事もないと思って、ありがと、と言って、椅子に座る。 「ホットのカフェオレ?」  紙コップを手に、高瀬が聞いてくる。 「あ、うん」  ……何でホットのカフェオレって思うんだろ?  アイスもホットもあるし、ブラックも、カフェオレも、ココアとかもあるのに。  高瀬は紙コップを2つ持って歩いてきて、1つを差し出しながら、オレの目の前に座った。 「ありがと、高瀬」  コップを受け取って、目の前の高瀬を見つめる。 「……ん?」  くす、と笑う、高瀬の瞳は、いつもと変わらず、優しすぎて。  軽く息がとまりそうになる。 「……高瀬は、なに?」 「ホットコーヒー」 「……なんでオレは、ホットのカフェオレなの?」 「なんでって…… あー……午後よくカフェオレ飲んでるなーと思っただけ」 「――――……」  別に毎日一緒にコーヒーを飲みにはこない。  好きな時に、ここに入れに来て、机で仕事しながら飲んでる時の方が多い。  なんだかすごく不思議で、高瀬を見つめていると。何を不思議がってるか分かったみたいで、苦笑いを浮かべた。 「……なんとなく、ブラックじゃない白っぽいのを飲んでるのが、目に入ってるから、て言えばわかる? ホットって言ったのは、もともとあんまりアイス、飲まないだろ?……って、それくらいのことなんだけど」  高瀬はそう言って、おかしそうに笑う。 「でもって、残業とかんなって、眠くなってんのかなーって時は、ブラック飲んでる気がする」  ……確かに、そうかも。  ……でもそんなの、隣だからって、そんな、見える?  ……高瀬、いつも、何飲んでるっけ。   紙コップはみえるけど、中身までは、しらない。のぞき込まないしな……。 「オレ、高瀬、何飲んでるかしらないけど……」 「オレはいつもブラック。 仕事中甘いの無理……」 「そう、なんだ」  ……聞いたことなかった。  何飲んでるかなんて、聞かないもんな。言わないし。  朝に家で飲んでるのが、ほとんどブラックなのは、知ってるけど。  何で……高瀬だけ、オレのが分かるんだろ。 「そう言われると、なんで織田のコーヒーの色見てんだろ……」  高瀬も、んー、と考えてて。  ――――……あ、と思いついたように、オレを見つめた。 「オレ、立ち上がって歩き出す時とか、いつもお前の頭見てるからかも」 「え?」 「お前のこと見るのが癖になってて。ついでにコーヒーが目に入ってきてるのかも」  クスクス笑って言われるけれど。   「……っ」  めちゃくちゃ、照れる。  なにそれ。……そんなにいつも、見てくれてるの?  ……オレ気抜いて変なカッコとか、だらしないカッコとか、してないよなと、そっちの方が気になってしまう……。  うう。 なんか、すごく恥ずかしい。  高瀬を正視できず、思わず俯く。 「……んー、オレヤバい……かな」 「え?」 「……自分でも、気づかない内に見てるとか。 ヤバくない?」  こそこそ囁かれて。  高瀬は、ちょっと、気まずそうに、苦笑いを浮かべてる。 「……やば……くはない」 「……ん?」 「……すっごい――――……大好きって、思うだけで……」  ヤバいとか、そんな言葉じゃなくて、  嬉しいし、大好きだし。  と思って、伝えたくて、言ったのだけれど。  言ったと同時に、恥ずかしくなって、耳まで熱くなって、俯く。  ……冷めろ冷めろ。  まじ早く冷めろ。 「――――……織田、大好きだよ」  周りに人は居ないけど。  ――――……すごくこっそりと、耳元で、囁かれると、やっぱりここ、会社なのに、と焦る。 「………っっっ ……」  もうなんか、つらい。  なんかもう、ぎゅーー、て、抱き付きたい。 「早く仕事終わらせて、帰ろーな?」  その言葉を聞いたら、  ……おんなじ、気持ちなのかな。  と思って、嬉しくなってしまって。  うんうん、と2回、頷いた。

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