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◇トラブル発生*圭 2

 渡先輩が高瀬に説明してるのを、オレもなんとなく聞いてると。 「じゃもう、仕事終わらせる準備して。家帰って準備したら出て。時間合わせて皆でいくから」 「はい」  そのやりとりをぼーーー、と見守っていたオレは。  あー、高瀬、行っちゃうのか、泊りで……。  「織田?」と、高瀬に首を傾げられて、はっと気づいた。  渡先輩と太一先輩は少し離れた所で、何か話してる。 「一緒に夕飯食べれなくなっちゃったな」 「うん。そう、だけど。仕方ないよね」 「ごめんな」 「ううん。……てか、高瀬、やっぱりすごい。そんなとこ連れていかれるって」 「――――……」 「頑張ってね、オレ、めっちゃ応援してるから」  言うと、高瀬は、ぷ、と笑う。 「うん。応援、してて」 「出来る時に連絡入れとくから、見れる時に見て?」 「ん」 「オレもここで、残業頑張る」 「ん」  ほんとは、ちょっと。  ――――……ていうか、ものすごく、寂しいけど。 「……織田、ついてきて?」 「ん?」 「先輩、ちょっとトイレ行ってきます」 「おー」  あ、トイレね。  高瀬の後を歩いてフロアを出ると、ざわついた空気が途切れて、静か。   少しほっとする。 「トイレ? 高瀬」 「ん。あっちのトイレ」  一番近いトイレじゃない方に高瀬が進んでく。  高瀬がドアを開けてくれるので先にオレがトイレに入ると、外を確認しながら、中に入ってきた。 「ごめん、来て」  手を引かれて、個室に一緒に入った瞬間、ぎゅーっと抱きしめられた。   「仕事行くのはいいけど――――……」 「……」 「……しばらく会えないじゃん」  むぎゅぎゅ。  抱き締められて、すりすりされて、笑ってしまう。 「――――……高瀬……」  ぎゅ、と背中に腕を回した。 「連絡もできるかわかんないけど……」 「うん。大丈夫。終わるまで、がんばろ?」  言った瞬間。ちゅ、とキスされた。  そのまま抱き締められて、後頭部、ナデナデされてしまう。 「――――……高瀬……」  ……あーもう。大好き。 「……高瀬。頑張ってきてね」 「ん。 ――――……ごめん、またこんなとこに連れ込んで」  苦笑いの高瀬に、オレは自分から、ちゅ、とキスした。 「いい、嬉しいから」 「――――……」  ぐい、と後頭部に手が回って、舌が中に入ってきて。  急な激しいキスに、きつく目を閉じる。 「…………っふ……っ……」  しばらく受けて。  ゆっくり、唇が、離れた。 「――――……真っ赤……」  ふ、と笑う高瀬。指で、すり、と頬をなぞられる。 「…………っ」    最初軽いキスだったから、それで終わるんだと思ってたから。  びっくりした。 「じゃあ……帰るまで、待ってて」 「……うん」  ちゅ、と頬にキスされて。  最後、とばかりにぎゅ、と抱き締められた。  そーっと個室を出てトイレからフロアに戻ると、ちょうど部長の所から責任者たちが散らばる所で。色々決定したんだなと思った。  各チームが集められて、埼玉に行く組と、残る組に分かれて、仕事の伝達。  それが終わったら、慌ただしく、埼玉組が部屋を出ていく。  渡先輩と高瀬も、もう帰り支度が済んで立ち上がってる。 「16時に向こうの駅で全員集合だって」 「はい」 「高瀬、家近いんだよな。 どっかで落ち合うか」 「はい。家出る時、また連絡します」 「オッケー。 じゃ、行くわ。 じゃ、あとよろしくな」 「おう、頑張れー」 「いってらっしゃい」  渡先輩が歩き出して。  その後に、高瀬も並んで。 「じゃな、織田」  ぽん、と背中を叩かれ、視線を合わせる。  「頑張って」と笑顔を向けると、ふ、と高瀬も笑った。  2人が出ていく後ろ姿を見送って。  普段よりかなり人数の減ったフロアーに目を向ける。 「なんか、人居なくて、寂しいですね」 「んな事いってられないんだよなー、引き継いだ仕事進めないと」  太一先輩が苦笑い。 「あっちが落ち着くまで、頑張ろうぜ」 「はい」 「とりあえず、自分の仕事、先すませよ」 「わかりました」  高瀬も頑張るんだから、オレも頑張ろ。  気合を入れて、パソコンに向かった。

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