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◇頑張る*圭 1

「はー……ただいまー……」  帰りがけに太一先輩と夕飯を軽く済ませて、自分のマンションに帰ってきた。すぐシャワーを浴びて適当にドライヤーをかけて、寝る準備をしてから即ベッドに転がった。  ……入社して、今日が一番、疲れたかも……。  23時半か……。  スマホを見ると、高瀬からのメッセージは、16時前に、「これからいってくる。織田も頑張って」というのが入ってて。それ以降はない。  という自分も、今まで何も入れられずにきてしまった。  高瀬への画面を開いて、打ち始める。 「さっき家について、シャワー浴びたところ。  高瀬はまだ仕事かな。そっちは、どんな感じ? きっと大変だよね。  頑張ってね」  会いたいなー……と、入れたかったけど、なんとなく、初日から入れるのはどうかなと思って、やめといた。  高瀬、頑張ってるよね……。  ――――……でも、会いたいなー……。  仕事の時に高瀬が横に居ないって事が、今まで無かったって事にも、改めて気づいてしまった。打ち合わせが別だったりはあったけど、席に戻ればほぼいつも隣に居たし、退社も大体いつも同じタイミングで、会社を出てたし。  大変な時も、高瀬が居たから、そんなに大変て感じなくて。  高瀬がいるおかげで、常に楽しかったなー……て事に、改めて気づいた。 「……たかせ……」  今も会社にいるのかなー……。  24時間対応っていってたもんな。  声、聞きたいなー……。  ごろん、とうつぶせになって、枕にぎゅと抱き付いていたら。  ――――……あー、なんかほんとに会いたくなってきてしまった。  瞬間。  スマホの着信音が鳴り響いた。  画面を確認して、急に、元気になる自分。 「高瀬っ?」 『あ、織田』  高瀬の声が、ふわ、と笑みを含んでる。 「――――……っ……」  優しい声に ……なんかもう、ますます今すぐ、会いたくなってしまう。 『……織田、今なにしてる?』 「今もう、ベッドだよ……高瀬は?」 『今休憩。コーヒー飲んでる』 「そっか……渡先輩は?」 『今まだ話してて、先休憩行っていいって。だから今は1人だよ』 「今日は何時まで?」 『とりあえず2時まで。で、ホテル行く』 「そっか……じゃあと2時間半位か……」 『良かった、織田が寝る前に話せて』 「……うん」 『声聞いて、元気んなった』 「……良かった。オレも、元気になった」 『――――……織田……』 「ん?」 『ごめんな。 仕事中、ちゃんと連絡できないかも』 「うん。分かってるよ」 『色んな人と話してるか、あとはひたすらパソコンだから……スマホ見てる暇もなくてさ。こんな風に1人になれたら、連絡する。あとはトイレん時かな。一言くらいなら、送れるかも』 「いいよ。無理しないで。分かってるから、大丈夫。オレも今日、忙しくて全然送れなかった」 『そっか。――――……終わるまで頑張ろうな。週末には会えるだろうし』 「うん」  週末。会えるまで頑張る。 「――――……高瀬……」 『ん?」 「……オレも、頑張るからさ。終わったら一緒に美味しいもの食べにいこ?」 『――――……そうだな。行こ』 「うん」 『――――……な、織田』 「ん?」  高瀬の声が少し、小さくなる。  聞き取ろうと、静かにしてると。 『……帰ったら』 「ん??」 『……いっぱいキス、しような?』 「――――……っ……」  囁かれて、息が止まる。 『……織田?』 「……うん。する……したい」  …………誰もいないのに。恥ずかしい。 『……いますぐそっち、行きたいな。――――……抱きたい……』  最後は超小声で言って、くす、と笑う高瀬に、ここに居ないのに、顔が熱くなる。 「……終わったら、早く帰ってきてね。待ってるから」 『ん、頑張るよ。織田も頑張って』 「うん!」  オレが頷くと、高瀬がふ、と笑う気配。 『ありがと、織田。――――……和んだ……』 「……こちらこそ、だよ……」  言うと、高瀬がまた笑った気配がして。  次の瞬間。 『あ。先輩来たから……またな?』  急にそう言われて。「ん」と頷くと、「おやすみ」という声と共に、電話が切れた。  ――――……高瀬は今もスーツで頑張ってるんだよなー……。  オレもいつか、一緒にそういうのに対応できるように、なろう。  ……がんばろ。  たった今まで、高瀬と繋がっていたスマホをそっと握ったまま。  そのまま、ゆっくり目を伏せた。   

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