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◇頑張る*圭 2

 翌朝。目が覚めて、一番最初に、高瀬の事が浮かんだ。  2時にホテル行って、シャワー浴びて……すぐ眠れたのかな。  ……ご飯はいつ食べたんだろ。  まだ寝てるだろうしと思って、連絡は入れずに、スマホを閉じた。  食パンとコーヒーで軽い食事を済ませて、出社。  朝の内はまだ良かったけれど、こんな時に限って、トラブル発生。    太一先輩や他の先輩達と打ち合わせや電話応対、営業への説明に追われた。  昼も、社内の店で買ってきて、ミーティングしながらの、15分。  やっと落ち着いて、太一先輩とチームの先輩達と夕食を軽く済ませて帰ってきて、シャワーを浴びてベッドに転がったら、24時を回っていた。  スマホ、高瀬からの連絡はない。  オレからも、できなかった。  ……大規模障害って、今日のあれなんかよりずっと大変なんだろうなあ。  普段の人たちで処理できないから、助けを呼んでるって事だもんね。  大変だ。しかも普段担当してない所で、原因見つけて対処するって……  ほんと、大変なんだろうな。  ……今日ってまだ、水曜がおわったとこだよね。  ……木金、まだ高瀬と別かー……。  ……寂しいなー……。  顔、見たいな。  声、聞きたいな。  高瀬、どうしてるんだろ……。  今寝てたら困るし、連絡出来ないなぁ……。  ――――……たかせ……。  高瀬の事を思いながらとりとめなく考えていたら、そのまま、電気もつけたまま眠ってしまって、朝のアラームで目覚めた。  顔を洗って、食事をして、出社の準備。  昨日は、連絡を取らず声も聞かなかった。  高瀬と知り合ってから、初めてかも。  高瀬からのメッセージもない。  きっと昨日のオレと同じ感じなんだろうなと予想がつくので、そこには何も感じない。こういう時、同じ職業て理解できるからいいな。  朝のメッセージも、もしかしたら今寝たところかもしれないから、送れなかった。  高瀬、今日も頑張ろ。行ってきます。  心の中で言って、家を出る。  電車で揺られながら。  そう言えば入社式での一目惚れからこっち、ずーっと近くに高瀬が居たから、毎日ウキウキしてて。楽しい嬉しいばっかりだったから、高瀬の居ない会社に行くのがこうなって初めてなんだなあ、オレ。  どんだけ高瀬のおかげでウキウキ楽しくなってたんだか。  ちょっと可笑しくなる。  ……また思い知ったかも。  オレの中の、高瀬の占める割合。  出社しても、隣の席が空いてるのが、どうにもこうにも寂しくて。   でもまあ、そんな事ばかり言ってられない。  仕事はやっぱりいつもより忙しい。  昼前には、少し落ち着いた。  今日は昨日より、少しマシだな。  高瀬、どうしてるかなあ……。  少し落ち着くと、高瀬の顔が浮かぶ。  なんか。  恋しいって、こういう気持ちかな……。  切ないなあ……。  いつも隣にある、優しい笑顔がたった2日ないだけなのに。  ぽっかり穴が空いたみたい。  昨日はそんな事考えてる暇なかったけど。 「織田」  呼ばれて振り返ると、同期の加藤が立ってた。 「あれ。加藤。どした?」 「なあ、こないだ話した、明日の飲み会どうする? 昨日高瀬と織田の3人トーク作って連絡したけど2人とも既読んなってねーからさ」 「あ、ごめん、昨日からスマホ、見てなかった。夜もすぐ寝ちゃったから」  加藤の言葉にスマホを出して確認する。 「昨日いそがしそうだったもんな」 「ん、ごめん」 「高瀬は埼玉行ってるんだよな。結局今週はずっと向こうっぽいな」 「え、そうなの?」 「うちの先輩からさっき連絡あって、多分金曜の夜か、土曜午前まではいるんじゃないかって」 「そうなんだ……」 「別に高瀬居なくても、いくだろ?」 「うん、まあ。そう、なんだけど」  そうなんだけど、ね……。 「行こうぜ、今週忙しくて大変だったしぱーっとさ」 「ん。……いーよ。このまま落ち着いて、早く帰れるなら行く」 「オッケー。とりあえず詳細は、一応高瀬とのラインに送っとく」 「うん、分かった。ありがと」  返事をして加藤と別れ、スマホを机に置いた瞬間。  太一先輩が、パソコンからこちらを振り返った。 「織田、さっき、渡から連絡あったよ」 「あ、そうなんですか」 「かなりやられてた」  苦笑いの太一先輩。 「電話で連絡がきたんですか?」 「うん、会社の電話にかかってきた。上に取り次ぐ前に少し話したんだけど。睡眠ギリギリでやってるみたい。変な時間に交代で寝るから、超眠いみたい」 「わー。大変そうですね……」 「高瀬も頑張ってるよって、織田に伝えてだってさ。織田も頑張ってるって伝えといたよ」  そっか。  分かってはいたけど。 高瀬、頑張ってるんだ。  その言葉に、笑って頷いてから。 「先輩、今回みたいな事って、入社してどれくらいありました?」 「大きいのは2回目かな。まあ、細かいのは、織田も知ってる通りな感じ。普段からちょくちょく」 「結構大変なんですね……」 「だな。まあでも残ったこっちは今日は割と落ち着いてるし。あいつらの分も頑張らないと。 あ。そろそろミーティング始まるな。準備して行こ織田」 「はい」  ――――……とりあえず、仕事、頑張るか。  高瀬が終わった時、オレも頑張った、て、ちゃんと言えるように。  気合を入れて、立ち上がった。

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