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◇親指でキス*圭

「あ、おい、真宙、勝手に行くなよ」  俊兄が言いながら、また真宙を追いかけていく。 「一番上のお兄さん?」 「うん、そう」 「なんか――――……織田の兄さん、て感じするね」  高瀬にふ、と笑われて、どういう意味?と聞くと。 「優しくて、おおらか? 良いお兄さんて感じ」 「そう、だね。良い兄ちゃんだったよずっと。このプラネタリウムもさ、俊兄がもともと好きでさ。親が、どこ行きたい?ていうと、俊兄がプラネタリウムって言うから、オレ達兄弟も必然的にいっぱい来てたの」 「あぁ、そうなんだ」  高瀬はふ、と笑ってる。  来海の前にしゃがんで、 「来海も、ここよく来るの?」  そう聞いたら、来海は嬉しそうに笑った。 「うん、いっぱいくるよ」 「そうなんだー。星、好き?」 「うん、大好き」 「そっかー。オレも好きだよ」  ふ、と笑ってオレが言うと。  来海がもっと嬉しそうに、にっこり笑う。 「オレも、好きだよ」  不意に高瀬がそう言って、オレを見てから。  来海に視線を向けて、くすっと笑む。  来海は、またまためちゃくちゃ嬉しそうに笑って。  うんうん、と頷いてる。 「お兄ちゃん、お名前は?」 「拓哉だよ」 「じゃあ、拓ちゃん?」  その呼び方に、一瞬、オレと高瀬は目を見合わせて。  ぷ、と笑って。 「拓ちゃんでいいよ、来海ちゃん」  高瀬が優しい声で言うと。 「圭ちゃん、拓ちゃん、あっちのお月様見に行こうー」 「いいよ」  来海に引っ張られて、オレと高瀬はついていく。  来海は見たいところに着くと、オレと高瀬の手を離して、月の展示の所に走って行った。少し後ろから見守りながら。 「高瀬、ありがと」 「いいよ。可愛いし」 「もう行く?」 「良いのか? 別にオレ、織田とあの子達の気が済むまで居てもいいけど」 「お昼とかは?」 「一緒でもいいし、2人でもいいし。任せる」 「一緒でもいいの?」 「別に良いよ? 何で?」 「――――……んー。何となく、オレの親戚と、そんな一緒に居てもらうとか」 「織田のだからじゃん」  なんか、普通の顔で、高瀬がそんな風に言う。 「――――……」  オレの、親戚だから。  普通に。そう言う高瀬に、何か、咄嗟に返事が出てこない。 「織田も楽しそうだし、あの子達も嬉しそうだし。全然良いよ」 「――――……」  ああ、なんか。  ――――……すっごい、好きなんだけど。 高瀬。  じっと見つめてると、ん?と高瀬が微笑む。 「まあ、オレも、ただの友達とかの親戚とは一緒に過ごそうとか思わないけど。来海ちゃん、すげー懐いてくれて可愛いし」 「――――……高瀬がカッコイイからだよ。イケメン好きだから」 「はは。光栄だな?」  クスクス笑う、高瀬に。  ――――……なんか。  めちゃくちゃキスしたい。  オレが女の子だったら。  キスしてるだろうなあ。と。  別に、男同士だから嫌だなんて、今、思って無いけど。  なんか。男女だったら、ここでしても、そこまで変じゃないかも。とは思ったりして。そういう点では、ちょっと、寂しいような気もするけど。  と思ってたら。  高瀬が急にオレの頬をぷに、とつぶして。 「え」  思った瞬間、親指で、唇に触れた。 「――――……」  ぷ、と高瀬が笑う。 「――――……キスしたい?」  こそ、と囁かれて。 「――――……」  びっくりしたまま高瀬を見つめて。  頬から離れた指が触れてた所を、思わず触れてしまう。 「……うん」  頷くと、高瀬は、ふ、と笑って。 「今の、それのかわり。――――……後でな」  親指で触れたのが。キスのかわり。  ――――……なんか。笑みが零れてしまう。 「なんでそんなに素直な顔するかなー、ほんと……」  クスクス笑う高瀬に背中をポンポンされながら、一緒に来海の近くに寄ると。 「あ、圭ちゃん、あれ見てー!」  来海が指してる先を見ながら来海の隣にしゃがんで、うんうん頷いて。  そうしながら、立ったまま、来海が指す方を見てる高瀬を、少しだけ見上げて見つめてしまう。  ――――……なんかもう。ほんと好き。高瀬。      

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