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◇愛しい*拓哉
「高瀬、一口ちょうだい?」
「ん」
多分織田は、自分のフォークで刺して、食べようと思ってるっぽいけど。
オレが刺して、はい、と口の前に出してやったら。
一瞬引いてから。
多分、ここで拒否しまくるのも目立つと思ったんだと思う。
頑張って、口に入れてた。
「美味しい……けど……」
「ん?」
織田がちょっと近づいて、ひそひそと話してくる事は。
「……高瀬、この店で特に目立つからさぁ……オレにそんな事してたら」
そんな話。
目の前の困り顔に、クスクス笑ってしまう。
「してたら、彼氏かなって、喜ばせるかもな」
「……その反応を、面白がってるの??」
むー、と眉をひそめてる。
違うな。
さっきからこっちを見てキャーキャー言ってる子達じゃなくて。
……なんか恥ずかしそうに困ってる、織田の方を楽しんでるんだけど。
分かってないな。
「高瀬、チョコケーキ、食べる? 美味しいよ」
「食べさせて?」
「…………どうぞ」
2秒くらい葛藤してたけど、織田は、ケーキのお皿を両手でずりずりとオレの方に押してきた。
ぷ、と笑ってしまうと、「絶対面白がってるでしょ……」とジトー、と見上げてくる。
「織田の反応がね。面白くて」
クスクス笑いながら、オレは、織田のケーキに小さくフォークを入れて、口に運ぶ。
「ん、美味しいな」
ほんと、反応面白くて。……それがすごく可愛いと思う訳で。
「あのさ、高瀬」
「ん?」
「……何度か、俊兄がさ」
「うん」
「早く結婚とか子供とか言ってたの……」
「ん」
「……昔のオレは、そう言ってたけど。今、そう思ってないからね?」
なんか、一生懸命な顔でそう言ってくる。
まあ、気にしてるんだろうなとは、思っていたけど。
思ってたよりももっと気にしてたみたいだな、と分かって。微笑んでしまう。
「オレ、それ、織田に直接聞いた事あるよな」
「……うん」
「好きだって言った時も、その話、したよな」
「……うん」
「――――……平気だよ、気にしなくて」
「……ほんとに?」
「織田がそう思って生きてきたのは知ってるけど」
「――――……」
一生懸命な顔でじっと、見つめてくる。
……なんか可愛いなと思いながら。
「それよりも、オレと居るの選んでくれたって、思ってるから」
「――――……」
「だから、大丈夫」
織田は、ぽけ、として。オレをしばらく見つめると。
それから、何だかすごく嬉しそうに、にっこりして。
「うん、そう」
そう言って。
なんか、めちゃくちゃ笑顔。
「そうなんだよ、うん」
「――――……」
「高瀬、分かってくれてて嬉しい」
心底嬉しそうな顔をして。
何だかな。ほんとに。
クスクス笑いながら。
――――……本当は、少しは気になる。
全く、気にならないなんて嘘だと思う。
織田は早く結婚して子供3人は欲しいって言ってたし、それがすごく似合いそうだし。――――……だけど、告白した時に、それよりもオレと居たいって言ってくれた事は、ちゃんと覚えてる。
日々、オレの事、まっすぐ見続けてるのも、知ってるし。
だから、疑ったり気にせずにそう思っていたい、という事を、織田に伝えたんだけど。
なんか、こんな風に、嬉しそうにされると。
――――……ほんと、愛しくなってしまう。
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