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◇勘違い*拓哉

 織田と電話がつながると、あ、バレちゃった、みたいな声。  明日まで隠しとくつもりだったのかなと思うと、苦笑い。  その後、一緒にお弁当を食べて、それぞれで、仕事を始めた。  本当は織田のを手伝ってあげたかったし、それで早く終わらせるのもありかと思ったけど。一生懸命やろうとしてる、織田っぽいところに手を出したくはなくて、かなり我慢した。  少し話しかけながら、お互いの仕事を進めて、ある程度キリが良いところまで進んだ一時間程度で、撤収することにした。 「ごめんね、高瀬、なんかこんな時間まで付き合ってもらって」  会社のエントランスを出ながら、織田がそんな風に言ってくる。 「……結局一緒に帰れて、オレはすごく嬉しいけど?」  思ったのはそれだけだったので、そう伝えると、織田はきょとんとした顔をしてオレを見て、それから、少し恥ずかしそうにしながら、ふわふわ笑い出した。 「……それは、オレも嬉しい」  えへへ、みたいな顔をしてオレを見上げるの。  ……ほんと可愛いな。  と、その時。 「あ」  という、割とデカい声が聞こえてきて。 「そこの二人ー」  と、続く。 「あ」  振り返った織田がそんな声を上げてる。オレは、もう、誰か分かってるから、振り返りたくなくて振り返っていないのに。 「高瀬高瀬、後ろ」  織田がオレの腕をトントンたたいてるのは可愛いんだが。 「分かってる」 「ん?」  あ、分かってるの?という顔で、オレを面白そうに見上げたのも可愛いんだが……。 「お前ら、ほんとにずっと一緒に居るんだな」  ちょっと呆れたような、面白がっているような、声。 「須永も遅かったんだねー、お疲れー」 「そっちもお疲れ」  織田は、前からずっと仲良しだったみたいな口調で、須永と話し出した。  仕方なく、体の向きを変えて、須永に向き直った。 「あからさまに邪魔って顔すんのやめてくんない?」  須永が苦笑い。 「何。残業?」  短い言葉で聞くと。 「残業以外でオレがここに居る訳ないだろ。なあ?」  須永が織田にむけて、最後問いかけている。 「はは。そーだね」  なんて織田はニコニコ答えてる。 「今までも会ってたの? オレ達って」 「ああ、オレは見かけてたよ。高瀬も、いっつも一緒の織田も」 「そうなんだ。じゃあこれからも会うかもね」  会わなくていーけどな、と心の中で言うオレ。  特に織田には会わなくていいぞと思っていると、オレの表情から何か察したのか、須永は笑いながらオレを見る。 「あのさー、高瀬、もうオレ社会人でさ、モデルもやってねーし、お前に張り合う気はない訳、分かる?」 「…………」 「それに、女の子ならまだあるかもだけど、織田とは無いから。っつか、オレがちょっかい出したって、織田、乗らないよな?」 「乗るわけないじゃん」  ケラケラ楽しそうに笑って即答してる織田を見ながら、須永がオレを見てくる。 「だから、警戒しないでくんない?」 「……まあ。様子見で」  そう言うと。 「様子見だって。……高瀬って怖いよなー? 織田、こんなやつ、見限ったら、試しにオレと……」  じろ、と睨むと、須永は面白そうに笑って、織田を見つめる。 「ほらなー? 冗談通じねーんだもん」 「……お前のは本気かどーか分かんねえから」 「冗談だって。なー? 織田?」 「……うん、これに関しては、冗談だよ、高瀬。絶対須永は、オレより高瀬の方が好きだもん」  突然こんなことをきっぱり言った織田に、オレと須永は、えっと思わず顔を見合わせてしまう。 「まだ言ってたの、それ」  須永がクッと笑い出した。オレもさすがに苦笑い。  織田のそれ、酔っぱらってたからとかじゃなくて、結構本気で言ってたのか……。 「ほんと織田、面白いなー」  クスクス笑いながら、須永は織田を見る。 「まあ、また会ったら声かけて」 「うん。でも高瀬はあげないけどー」  最後はこっそり言って、織田は須永にバイバイと手を振ってる。 「……ちょっと、その勘違いだけはよく言い聞かせといて、高瀬」  苦笑いの須永に言われて、仕方なく、そこだけは、オレも頷いた。 「じゃーなー」  立ち去ってく後ろ姿をなんとなく見送ってから。 「……なんか織田」 「ん?」 「……すげえ仲良くなってない?」 「んー……? いやそんなこともないよ?」  不思議そうにオレを見て、首を傾げてる。  ……ほんとこういう、意識せず、するっと人と仲よくなるとこ。  貴重で大事だと思うんだけど。  須永とは仲良くならなくていいんだけどなと思いつつも。  ニコニコオレを見上げているのが可愛いので、なんだか、緩んでしまう。  

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