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◇ミルクティー*拓哉

 マンションにたどり着いた時は、もう結構遅い時間だった。 「ただいまー」 「織田、先にシャワー浴びちゃいな」 「いいの?」 「いいよ。着替えも持ってくから、入ってて」  ありがとーと素直に言いながら、織田がバスルームに直行していく。  可愛いなぁ、ああいう感じ……。そんな風に思いつつ、スーツを脱いでハンガーにかける。部屋着や下着など、色々準備して脱衣所に置いた。 「織田、もう洗い終えた?」 「うん、もう出るよー」 「バスタオル、置いとくから」 「ありがと」  織田が出てくるのと入れ替わりでシャワーを浴びて、リビングに戻ると、ちょうど織田がドライヤーを終えたところだった。 「あったかいもの、飲んで寝る?」  そう言うと、うん、と織田が微笑む。  お水を入れて電気ポットのスイッチを入れたところで、椅子の所で立って待ってる織田に、「ドライヤーかけてあげるから座ってー」と言われた。  織田の前に座ると、スイッチが入って、暖かい風と、優しい手。 「気持ちいい?」 「ん」  頷くと、そかそか、と織田がのんきな声で頷いている。  しばらくドライヤーをかけてくれてる間、ふんふん鼻歌を歌ってる。  ドライヤーの音でちゃんとは聞こえなんだけど、ご機嫌な感じなのは分かるから、ふと、顔が綻んでしまう。 「はい、乾いたよ~」  そう言って、織田がドライヤーを止めた。 「ありがと」 「うん」  頷きながらドライヤーを片付けてる織田から少し離れて、紅茶を淹れる準備。牛乳を電子レンジで温め始めた。  ティーポットとカップに熱湯を入れて温めて、一度お湯を捨ててから茶葉を入れる。  ドライヤーを片付けてきた織田が近づいてきて、「紅茶?」と嬉しそう。 「ミルクティーにする。砂糖いる?」 「ううん。砂糖はいいや。……良い匂いー」  すうすう息を吸って、幸せそうにしてる織田を見ると、自然と笑ってしまう。 「ほっとするね……」 「そだな」  綺麗な色がポットの中に広がるのを見つめていると。 「なんかね、オレさ」 「ん?」 「……ちょっと油断してたかも。仕事」  少し静かな声で、織田がそう言う。 「ずっとそんなにミスしないでやってきたからさ。しかも納期……何回もミーティングとかもするし、色んなとこにも書くし、間違えてるはずがないっていう思い込みというか……」 「うん。……まあ、あるよな。思い込みも、慣れてきたからこその、油断も」 「……うん。でもさ、納期なんて一番守らなきゃいけないとこだしさ」  珍しく、ちょっと落ち込んでるのかなと思って話を聞いていると。 「だから、事態が分かった時は、ほんと、めちゃくちゃ落ち込んだんだよね」 「ん……そっか」 「うん。そーなの」 「今も落ち込んでる?」 「ううん。今は平気」  まあそうだと思ってたけど。  微笑んでしまいながらオレは、紅茶をカップに注いでいく。温めたミルクも注いでかき混ぜて、織田に渡した。 「飲も?」 「ありがと」  受け取って、織田が、ふわりと嬉しそうに笑う。

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