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◇織田みたいな*拓哉

「……ほっとする」  テーブルで肘をついて、両手で大事そうにカップを持ってる姿が、なんだか可愛い。 「おいしー……」 「良かった」  何だか自然と手が伸びて、その頭をよしよししてしまう。 「あ、そう、それでさ、高瀬」 「ん」 「でね、最初すごく落ち込んでたの、すごい油断してた自分に自己嫌悪というかさ」 「うん」  そういうのを聞くと、一緒に居てあげたかったなとも思ってしまうが。 「……でもね、皆優しくてさ」 「先輩たち?」 「取引先の担当の人も、全然怒らなくてさ。じゃあどこまでなら可能ですかって聞いてくれて。謝ったけど、謝らなくていいですよ、とか。すごい優しくて」 「良かった」 「……うん。でもほんとなら絶対怒られて当然だし、謝る時じゃん」 「まあ、怒る相手も居るかもな」 「でしょー?」  また一口紅茶を飲んでから、織田は、にっこり笑った。 「先輩たちもさ、手伝うってすぐ言ってくれるし。まあそこは、取引先の人と話したのも踏まえて、出来るとこまでは頑張るって、言ったんだけど…… でもそれもさ、そんな意地張ってないで皆に任せろって、注意されてもしょうがないなあとも思ったし」 「ん。まあ、そう、かもな」 「……だからすっごく、今日はさ」 「ん」 「優しいなーって感謝する日だった」  ふふ、と笑って、オレを見つめる。 「高瀬も、最後に現れて、すっごい優しかったし」 「――――……」 「一緒に残業してくれて、ありがとね」 「ああ……ていうか、オレは、今日はもう会えないと思ってたからさ。逆に、嬉しいしかなかったよ」  その頭をよしよし、と撫でると、ふふ、と織田が照れたように笑う。 「だからさ、今日オレは、あほなことしてて、ミスっちゃったけど……皆が優しくて、なんか幸せだったかもって思ってさ」 「ん」 「オレも後輩できたら、優しくしてあげよーって思ったよ」 「――――……そっか」  平和だなあ。織田の世界は。なんて、思ってしまうと。  くす、と笑ってしまう。 「いつも一生懸命やってるからだよ」  そう言うと、ん? と織田が見つめてくる。 「いつも頑張ってるから、そうなってるんだと思うよ」 「――――……」 「いつも適当にやって、ミスったら、怒られると思うし。そういうことだから、今まで頑張っててよかった、て思っておけば?」  クスクス笑いながらそう言うと、織田は、じー、とオレを見つめてから、にっこり嬉しそうに笑った。 「オレいつも頑張ってる?」 「頑張ってるだろ?」  ふ、と笑って聞き返すと、まあ頑張ってるつもりかなあと、織田も笑う。 「でも一旦気を引き締めて、もっと頑張るよ」  そんな風に言う織田のことが、やっぱり好きだなと、思う。 「オレも頑張ろ」  そう言うと、「高瀬がそれ以上頑張るとついていけないから、適度にね」とか言いながら、悪戯っぽい顔して笑うのも  やっぱ、可愛いなと、感じる。  こういう関係に、もしなっていなかったとしても、オレはきっと、織田みたいな奴がすごく好きなんだろうなと思う。  ……こういう関係になって、ますます、もっと可愛いとこも知ってるから。  やっぱり今のとこ、嫌いなとこ一パーセントもないかもなぁ……。  オレ、本気で、好きすぎかも。

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