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◇楽しすぎる

「浴衣の時って、こんなだったけ?」 「……全くおんなじだった気がするよ」 「そうだっけ? あ、でも確かに楽しい店員さんだったような」  顔はぼんやりとしか思い出せないけど楽しかったような気がする。 「多分織田はいつもそんな感じなんだと思うけど」  高瀬はまだなんだか笑ってるけど、でも楽しそうなのでいいかな、と思ったりしながら、一緒に店を通り過ぎていく。 「ピンク着るのは人生初かも」 「モデルの時とかも?」 「着なかった」 「へー。高瀬の初めて奪っちゃうの、楽しい」  わーい、と何も考えずに言ったんだけど。なんか言ってから、あれ、なんか今の発言、恥ずかしかった? と思い当たって、ちょっと口を噤む。  ……あ、やっぱりちょっと恥ずかしいかも……。  なんか顔に熱が。  口元押さえて、落ち着け―、と自分に唱えていると。  不思議そうな顔の高瀬が、オレをちょっと覗き込んだ。 「……どした?」  もう、この「どした」は、オレが赤くなってるから、言ってる。だってなんか不思議そう。  ……わーん、自分で言った言葉に、勝手に赤くなるとか、めちゃくちゃ恥ずかしすぎる。とかおもうと、余計に顔が熱くなる。 「あーもしかして」  高瀬が、ふと気付いたようにそう言って、オレを少し覗き込む。 「初めて奪った、とか言ったから? 照れてる?」 「…………」  こくこくこくこく。  もう、頷いて、それで許してもらおう。  めちゃくちゃ小さく、何度も頷くと、高瀬は、ふ、と笑いながら、 「そんなので照れちゃうとかさ」 「……?」 「可愛すぎて、困るんだけど」  高瀬の手が背中に触れて、ポンポン、とたたきながら。  高瀬もちょっと照れたみたいな顔をするので。 「……っっ何で高瀬も照れるの?」 「え、だってなんか織田がめちゃくちゃ照れてるし。可愛くてどーしようかなーと」 「……っストップ、ちょっと、黙っててっ?」  もうこれ以上何も言わないでー、顔がー! 熱が引かないからー!  ひーん、と困ってると、高瀬は、ぷっと笑い出して。はいはい、とまた背中をポンポンしてくれる。  しばらくしてやっと顔の熱が引いた頃。  高瀬はクスクス笑いながら言った。 「ここからどうする? 服はもう今日はいいよね?」 「うん。そだね」 「天気いいから、公園でも行く? 駅の反対側に、大きな公園あるからさ」 「うん行く行く!」 「池とかもあって、ボートとかも乗れたような」 「えっそうなの? 乗ろう乗ろう!」 「行ってみてやってたらね」 「うんうん」  わあ、めちゃくちゃ楽しみ。 「あ、じゃあさ、お弁当買って持っていこうよ」 「ああ、いいな。そうしよっか」 「うん、地下にお店あるよね」  地下の食料品や総菜のお店で、つまんでいろいろ食べれそうなものをたくさん買い込む。  百円ショップにも寄って、でっかい敷物も見つけて、完璧。と思ったら、高瀬がふと、立ち止まった。 「何?」  高瀬が見てるのは、おもちゃコーナー。 「キャッチボールする?」 「うん、する!」 「即答だな」  クスクス笑って、高瀬はボールをいっこ手に取った。 「あ、なんかめちゃくちゃ楽しみになってきた」  嬉しくなってそう言うと、高瀬は、オレも、と笑った。

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