225 / 235
◇デジャヴュ
駅ビルについて、男物の服の店が並んでる階を一緒に歩く。
高瀬が少し止まった店を、オレも覗いて顔を見上げた。
「ここ寄る?」
「ん」
高瀬が笑うので、一緒に入ると、高瀬は迷わず、白のセーターを手にとった。
白って珍しいかも。高瀬は、黒っぽい色が多い。それか、寒色系。クールなイメージにぴったりで超カッコいい。あ、あ、でも、白もたまに着てたかも。いいなあ。何着てもカッコイイから、全部似合うなとか考えていると。
高瀬がその白い服を、オレに合わせた。
「え? オレ?」
「これ似合いそうだと思って」
え、オレに似合いそうって思って、ここに寄ることにしたの?
そう思うと、何だかとっても嬉しい。
「似合う??」
「うん。似合う。どう?」
高瀬が合わせてくれるまま、鏡に映った自分を見る。
うん、悪くない、かなあ。
高瀬がオレに似合うって選んでくれるっていうのが、嬉しくて、ふ、と笑うと。高瀬は、オレが気に入ったんだと思ったみたいで。
「好き?」
と聞いてきた。「うん、好き」とすぐ答える。
「試着しなくても平気?」
「うん。セーターとかは大丈夫。パンツは試着するけど。脚の長さがあわない時あるし」
ふふ、と笑うと、高瀬もちょっと笑いながら、オレからセーターを外して、自分の腕にかけた。ん?と高瀬を見ると。
「オレが買ったら、着てくれる?」
「――うん! 着る!」
いいの?とか思ったけど、あんまり優しく笑うから、嬉しくなって、頷いてしまった。
「あ、じゃあオレも、高瀬の服選んで買いたい。良い?」
そう言うと、高瀬はまた、嬉しそうに優しく笑う。
「何色がいいかなあ……」
いつもと違う色もいいなあ。
思い切って、ピンクとか? ……超可愛いかもしれない!
ウキウキになって、ピンクの服を見ていると、高瀬が近寄ってきた。
「それ織田の?」
「え。あの。高瀬の選んでる」
「オレ?」
クスクス笑って、高瀬がオレの持ってたピンクの服を受け取った。自分にあてて、オレを見る。
「……似合う?」
「うん。すごく。可愛い」
思ってたよりも、もっと似合うー。と思ったのだけれど。
可愛いという表現に、高瀬が苦笑い。
「織田なら可愛いけど……」
「高瀬可愛くちゃだめ?」
しょんぼりしたところで、店員さんが近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
「あ。ちょうどいいところに」
「はい?」
「ピンク、どう思いますか?」
「ピンクですか」
オレの問いかけに、店員さんが高瀬の方を見て、おお、と思ったらしい。そんな顔をした。
「めちゃくちゃくイケメンさんなので、なんでも似合いますけど……あれですね、もうすこし、トーンを落としたピンクの方が良いかもしれないですね」
「これだと派手ですか?」
「目立つピンクですからね。こちらはお客様のほうがお似合いだと思います。こちらのお客様、普段は、今みたいな色の服を着られてますか?」
「黒とか青とかです」
オレが急いで答えると、「ですね」と、高瀬がクスクス笑いながら、オレを見る。
「それでしたら、まずは……こういう色はどうですか?」
「おお」
確かに、ピンクって感じのオレが選んだのより、少しくすんだピンクの方が、高瀬には合ってる気がする。
「一枚下に白いTシャツを着て、重ね着風にすると、カッコいいですよ」
「……確かに!」
なんだかものすごく似合いすぎて、めちゃくちゃうんうん頷いてしまう。
高瀬はもう、可笑しそうにクスクス笑ってるだけ。
「今は男の方でも、ピンクを取り入れる方結構いらっしゃいますし。お客様なら、モデルみたいに着こなしそうです」
「元モデルさんなんですよ~カッコいいですよね」
思わずウキウキ言ってしまうと、「あ、そうなんですか」と店員さん。道理で、と笑ってくれるので、めっちゃいい人、と笑い合っていると。
「これでいいよ」
高瀬がとても面白そうにオレと店員さんを見ながら、そう言った。
服をお互い買って店を出ると、高瀬が「なんか、浴衣ん時のデジャヴュが……」と言って、しばらく面白そうに笑っていた。
ともだちにシェアしよう!