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◇余興って??*圭
たまにそよいでくる風が、すごく気持ちイイ。
「あ。唐揚げ、おいしい」
「ん。これ?」
「それ」
オレが指したのを高瀬がぱく、と食べて、ほんとだ、と笑う。
「サクサクしてる」
「うんうん」
笑顔で言って、そのまま、ちょっと黙って食べる。
なんか、ほんと。幸せな感じ。
ずっとこんな風で居られたらいいなあなんて思っていたら。
「あ、そうだ、織田、聞いた?」
「ん? 何?」
「来月さ、社員旅行あるって」
「うんうん。聞いた。そんなのあるんだねー、オレら初めてじゃん。楽しみだね」
そうなのだ。オレ達の会社、社員旅行なんてものをしてくれるそうなのだ。
バスを貸し切って、温泉に行くらしい。そうだ、オレも高瀬にそれ話そうと思って忘れてた。
「じゃあ余興のことは? 聞いた?」
「えっ? 何それ?」
オレの反応に高瀬が苦笑い。
「聞いてないんだな」
「うん、余興って? オレら何かするの?」
「オレらっていうか、新入社員がするらしいよ」
「えええーー? 余興? あの、宴会とかの??」
「そう」
「え、何すんの? そういうのって、芸者さんとか呼ぶんじゃないの??」
なんか、頭には腹踊りとかがあって、ものすごい嫌。
高瀬の前で、そんなことできない。
……高瀬のも、それだけは、なんか見たくないよー!
なんだか必死な顔をしていたみたいで、高瀬が、ぷ、と笑った。
「ちょっと待って、織田、何想像してる??」
「……腹踊り……?」
言った瞬間、高瀬が口を片手で押さえて、オレから顔をそむけた。
そのまま、めちゃくちゃ揺れてて。
「高瀬……??」
呼びかけると、めちゃくちゃまだまだ笑ったまま、口元抑えたままで、涙目でオレを見る。
「あーもう、面白いな……」
クックッと笑いながら、「しないから」と言う。
「あ、しない? よかったー」
言うと、ますますおかしそうで。
そんな涙目で、笑わなくてもいいのに、と、思ってると、高瀬はオレの頭をクシャクシャに撫でた。
「なあ、どっちで想像したの?」
「ん?」
「オレと、織田。どっちが腹踊りするって考えたの?」
「……想像したのは、自分で。でも、高瀬がやるのは、なんかオレ、それだけは見たくないって思っちゃった」
そう言うと、高瀬はますます笑ってて、「ごめん、ちょっと黙ってて」とか言ってる。
「もー、笑いすぎだからねー!」
「ごめん……」
クックッと笑いながら、ようやくちゃんとこっちを見て。
「でも、オレ、織田のは見たいなー。可愛いかも」
「かっ! わいくないし!!」
オレの反応に、また笑いだす高瀬。
「はー。なんかほんと……織田って、可愛いよな」
「……馬鹿にしてますよね」
そんなに笑われて可愛いとか言われても。
ちょっと怒って見せていると。
「織田と居ると、すごくオレ、笑うんだよな」
「……確かに笑ってる気がする」
めちゃくちゃ笑われてる時がある気がするけど。
「すげー楽しいから、ほんと。……さっきも言ったけどさ。織田と居れてよかったなーと思う」
「――――……」
なんか、めちゃくちゃ笑った後の、不意打ちの、言葉。
そんなしみじみ言われて、見つめられると。
さっきまで大笑いしてたのに。と思うのに。
なんかすごく嬉しくなって、もう機嫌も直ってるオレ。
「あ、あとオレ、馬鹿にしてないよ。楽しいだけだから」
クスクス笑いながら、高瀬が言う。
ん、と頷いてから。
「あ、じゃあ余興って??」
そっちが気になってまた聞くと、またなんか思い出したのか、クスクス笑う高瀬。
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