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◇ファン*圭
キャッチボールを終えると、ゆっくり散歩しながら帰り道。
すごく穏やかで楽しかった。
「高瀬」
「ん?」
「楽しかった、めちゃくちゃ」
そう言ったら、高瀬ははオレを見て、ふ、と目を細めた。
「……ん。そーだな」
「買い物も、ボートも、ああいうとこでお弁当食べるのも、キャッチボールもさ。なんか……良く分かんないけど」
「うん?」
「なんか、キラキラしてたよー」
「……ぷ」
あ、笑われた。なんか言葉選びを間違えただろうか。
……まあ。でも。
ほんと、一日、キラキラしてた。
高瀬を見るオレの目に、キラキラフィルター付いてるからなあ……。
「オレも。なんか、一日、すごく楽しかった」
高瀬がすごく楽しそうに笑ってくれて、オレを見つめてくれる。
「キラキラしてたっていうのも、なんとなく分かる」
「……いいよ、無理しなくて」
クスクス笑いながらオレがそう言うと、高瀬は、無理じゃないよと言いながら、夕焼け空を見上げた。
「今までは普通に見てた、この夕焼けもさ。いまはなんか特別に、すごく綺麗に見える」
「――――……」
「……そーいうことだろ?」
最後のセリフを言いながらオレに視線を向けてきてくれる。
……夕焼けを見上げてる高瀬の顔がとってもキレイで、カッコよすぎて、見惚れていたオレは、ぱち、と目があって、どき、としてしまう。
「うん。そういうこと……なんだけど」
「ん? だけど?」
少し考えてから、オレは、ぷ、と笑ってしまった。
「高瀬のセリフは、超カッコいいなーと思って。オレ、キラキラしてたーとか、なんか比べるとあほっぽいなーと思っちゃった」
比べちゃうと大分違うな。
あと、言い方も、全然違う。高瀬カッコよすぎ。
「何で?」
「え?」
高瀬が、オレの腕に触れて、くい、と引く。
「織田、あほっぽくなんかないよ」
「――――……」
じっと、見つめ合う。
「いっつも、めちゃくちゃに、可愛いよ」
「――――……」
ぼっ。
……耐えようと思ったのだけれど、まあ当然耐えられる訳がなく。
一気に顔があっつくなって。
見つめ合ってた高瀬が、ちょっとびっくりした顔をしてから、ふ、と
笑って。笑われると余計、恥ずかしくなって、わたわたと。
ついつい、俯くと。
高瀬がオレの背中に手をぽん、と置いた。
「すぐ赤くなるのも、可愛い」
優しい笑みを含んだ声で、ささやかれる。
「……あのですね、高瀬さん」
「んん? ……何ですか?」
「……オレが赤くなるの、高瀬さんにだけなので。その、かっこよすぎる顔とか雰囲気が、いけないんですよ、マジで」
「いけないって言われても、困るんですが……」
ぷぷ、と高瀬が笑いながら、オレを見つめる。
「別に赤くならなくても可愛いには変わらないんだけどさ。オレが見つめると、すぐそわそわするのも、好き」
「……っしてる?」
「してる」
「……なんかどこ見てていいか分かんないんだもん」
「そろそろ慣れてもいいと思うんだけど」
「んー……高瀬ってさ、好きな芸能人とかいる?」
「んん? ……特別には浮かばないけど。何の話?」
「ほらあのさ。すっごい推しの人が居るとするじゃん」
「ん」
「そういう人ってさ、どれだけ応援しても、どれだけ見続けても、ずっとカッコいいし、ずっと好きでいるじゃん?」
「あぁ。何十年もファンの人とかって居るよな」
「オレにとっての高瀬は、最大の推しなので」
「織田って、オレのファンなの?」
びっくりしたみたいに言う高瀬に、ふふ、と笑いながら。
「ファンクラブ一号の気合で、ファンだよ?」
「そうなんだ」
ぷ、と笑って、高瀬がオレの頭を撫でなてした。
「え」
「……ファンサービス」
「えー、それは……」
「それは?」
「ありがとう~」
何だか嬉しくなって言ったら、高瀬はおかしそうにオレを見つめて。
「後で二人きりになったら、特別サービスしてあげるよ」
クスクス笑われて言われると。
また、顔が熱くなるけど。
夕焼けで隠れてるかなぁと思いながら。
ご機嫌で、歩いてた。
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