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第31話 2021*再会メリークリスマスイヴ
「あれ?」
目が覚めたあとで、静がロッカーの扉を閉めると同時に、ロッカールームのドアを開ける音がした。
「きみ、まだいたの」
「あ……」
経理部は隣りの部署にあたる営業部とロッカーが一緒であるため、時々すれ違う面々を静は記憶していた。そのひとりである営業部長の葛城円の存在を、今の今まで忘れていた。
「もう零時だよ。帰りなさい。確かきみ、隣りの経理部の──……」
「静です。大山静」
静は顔を上げた。こんな偶然があるだろうか。確かに髪の色は違うが、痩せぎすに近い体格をした優しげな顔がこちらを見て、少し不思議そうな顔をしたあとで、思い至ったように口を開いた。
「きみ……」
「サイレント、です」
思わず口走っていた。覚えているだろうか。イヴデモ参加者の中には、記憶が消える者もいると聞く。だが、もし記憶喪失なら、今は適当に誤魔化しても、次の約束を取り付けたい、と静は逸る気持ちで思った。
しかし葛城は、そっと顎に手をやると、考え込んだまま呟いた。
「きみか。え、ほんとに? そうだよな。確かにきみだ」
「赤髪でなくて、だいぶ地味ですけど……」
失望されることが怖くて、思わず髪に手をやる。
「何言ってるの。きみ、そのそばかす、間違いないよ。嬉しいなあ」
ふわっと笑まれて、静はその瞬間、思わず込み上げてくるものを耐えた。
「あの、カッツ、さ……いや、葛城さん」
熱いものがせり上がってくる。葛城もそうであるといい、と思いながら、静は静かに面を上げた。
「うん。もし違ったら、許して欲しいんだが、きみとはカップリングテストをした仲、でいいんだよね?」
「はい」
「しかし偶然もあるもんだね」
「驚きました」
隣りの部署からも、静の他に、南の島にバカンスにきている人間がいるなんて、ちょっとしたミステリだった。もしもかなうなら、これで終わりたくない。思い切って息を吸い込む。
「「あの」」
ユニゾンしてしまい、目を瞠ると、真摯な表情で見下ろす葛城の姿があった。
「ああ、すまない……、きみ、今日はこの後、予定ある?」
「いえ……」
家に帰って寝るだけだ。幸い、何の予定も入れてない。このあと何が起こっても、全然かまわないし、それどころか、そんなハプニングを望んでいる。
「こんなこと言うのは失礼だし、正気じゃないと自分でも思うんだが……実はきみの夢を見た」
「はい」
「このあと、もし暇だったら、私と付き合ってくれないか?」
「はい、喜んで」
静が静かに答えると、ロマンスグレーの髪色をした葛城は、そっと歩み寄って言った。
「メリークリスマスイヴ、静」
=終=
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