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第30話 2021*カップリングテスト
「きみの、それ腕輪? でもプラチナの指輪もしてるよね?」
カッツが不思議そうに言ったので、サイレントも気づいて弁明した。
「指輪の方はダミーで、腕輪が本物です。こうすると元に戻って……」
腕輪を指の付け根まで戻すと、中指に嵌まっているゴールドの指輪が現れた。実はホログラムで誤魔化しているだけで、腕輪はしていない。プラチナに見えた指輪も、実はゴールドの上からホログラムを掛けているだけなのだった。
「すごいねそれ。どうしたの?」
「ルドルフに言って、ちょっと袖の下渡してつくってもらったんです」
「そうなの。へえ。……キスしてもいい?」
「ん……」
カップリングテストで互いに指輪に口づけを落とすと、刻まれていた文字列が絡み合い、空間に消えていった。同時に目の前に半透明のハートがピコン、と出てくる。水が半分ほど満たされていて、カップルが成立すると、仲良くするたびに水が満ちてゆく仕組みだ。
「あ……これ」
「うん。大丈夫みたいだね。これできみの正式なパートナーになれるよ」
「うん……その、ありがとう」
「ん?」
「おれ、ずっとカップリングテストしてくださいって言いそびれてて……、それが原因じゃないけれど、失恋したところだったんです、去年」
「ハッカーの件?」
頷くと、カッツがそっと髪を梳いた。
「長く生きてると色々あるけれど、きみに出逢えて良かったよ。きみ、まだ失恋中かな?」
「たぶん、そうだと思う……思います」
「そうか。じゃ、これから私と仲良くして、少しずつ忘れていけばいい。ね?」
「ん……」
カッツは強制するでもなく、納得したようだった。同時に目の前にダイアログが現れる。
『我々トナカイは2021年12月24日、四世紀より連綿と続くサンタクロースによるトナカイ酷使に反対する声を上げる! 来る聖夜、トナカイ諸氏によるデモ行進は零時より南の島にて開催! サンタクロースの横暴によるブラック労働反対! 聖夜を神聖で静かな夜に帰すために、デモを行う諸氏は速やかにアプリをダウンロードされたし! 我らトナカイに安らかなる聖夜を! なお、カップリング成立による離脱は下記のボタンをタップされたし!』
「ああ、これ、押そうか」
「できれば、いちにのさんで」
「OK。じゃ、いち、にの、」
「さんっ」
ピコン! と音がして、目の前が真っ白になる。
ああ、帰ってきたのだ、とサイレント──静は会社のロッカーで目覚めた。
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