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第29話 2021*後戯

「ん……」 「あ、起きた?」 「へぁ? あっ……!」  がばりと起き上がろうとして、サイレントはカッツに止められた。 「まだ本調子じゃないんだから、無理しちゃ駄目だよ」  そのまま組み敷かれるようにしてベッドの上にダイヴさせられる。最後の記憶を手繰ったが、おぼろげに直腸までこじ開けられたあとの記憶がない。その後、どうしたのだろうか……と考えていると、「きみ、飛んじゃったみたいでね」とカッツが恥ずかしそうに言ってきた。 「直腸、したすぐあとにね。すごく締まって、抜くのが大変だったよ。持ってかれるかと思った」 「あ、ご、……」  ごめんなさいと言おうとして、声が枯れていることに気づいた。カッツは照れくさがる様子でうなじを掻いてから、「いや。ちゃんと見極められなくて、ごめんね。謝るのは私の方だよ」と真摯な声で言った。  身体が清拭されていて、シーツをきちんと掛けられていた。サイレントはその気遣いが染み入るほどに、優しさに飢えていたことを悟る。本当は、カップリングテストをしてみたかったけれど、切り出せずにいると、カッツが横に身体を預けてきて言った。 「お願いがあるのだけれど……きみとカップリングテストをしたい」 「え……?」 「身体の相性はそこそこいいみたいだから、パートナーを持ちたいんだ。嫌かい?」  驚いたサイレントは、まじまじとカッツの顔を見てから言った。 「おれでいいんですか?」  正直、飛んでしまったのは誤算だったが、カッツと続くことになるとは考えていなかった。互いに寂しい時に出逢った、行きずりの関係だと考えていたからだ。 「おれ、あなたにあげられるものって、何も持ってないですよ。プレゼントは、欲しいと思うくせに、おれ自身は何も。おれ……っ、あなたと合ったと思ったんですよね。カドが」 「カド?」 「おれは、四角四面な人間なので、近づくと誰かを傷つけてしまって。だから、距離を取るようにしてて……」 「……うん。そうか」  カッツは何を悟ったのか、頷いた。 「現実での私はわりと寂しい人間でね。部下を叱ることも苦手だし、褒めるのも不得手なんだ。けれど、地位は上がっていくばかりでね。そろそろ身を固めろと周りは煩いし、しかし私自身はこんなだし、誰かパートナーが欲しいと、ずっと思っていたんだ」  夢のような話だった。 「きみに声をかけたのは、寂しそうにしてたから。私が勝手に自分の境遇に重ねたんだ。でも、抱いてみたら驚くほど、素直で可愛いじゃないか。惚れるよ」  ぽつりと漏らした言葉が迫ってきて、サイレントは頷いた。 「わかりました。しましょう。……カップリングテスト」

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