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第二章 獣人の国と少年 (十四-後)

それから数日、夜宵の姿が王宮内で見られることが無くなり、さすがにシルヴァンも焦りを募らせていた。 護衛騎士やメイド達に聞いても夜宵のことは知らぬ存ぜぬで答える者はいない。 これまで夕食だけはアリアと初めて対面した、たった一日を除いては姿を見せていた。 それが今では夕飯ですら姿を見せず、シルヴァンの部屋に戻ってきている様子は無い。 この王宮から跡形もなく夜宵の痕跡が消えてしまったようにも思える。 夜宵のことがチラつき仕事が手につかなくなってきたのを見計らったように兄のレオナルドがシルヴァンの部屋を訪ねてきた。 「やあ、だいぶ集中できていないようだね。……そういえばあのヒト族の子はどうしたんだい?」 「夜宵は……分からない。居ないんだ、どこにも」 「それは心配だね」 気が立っているからだろうか、レオナルドの反応に違和感を示したシルヴァンは兄を睨みつける。 「兄上、何か知っていそうな反応ですね」 「鋭いね。まあ知らない訳では無いが、これは彼の為でもあるんだ。だから、そっとしてあげるのが良いんじゃないか?」 シルヴァンはレオナルドの肩に掴みかかり、さらに苛立ちを露にする。 「話して下さい」 「……シル、君はあの子のことをどうしたい思っている?あの子は悩んでいたんだよ。君に婚約者がいたことも、番が何なのかも何も聞かされないまま知らない土地に来て不安を抱えていた。私はそんな彼に少し手を貸した。今頃楽しく過ごしていることであろう」 「夜宵が……そんな……」 「シル、お前は王族だ。然るべき相手と婚約し子孫を残すことは義務である。あの子は自由にしてやるといい。お前もそれを望んで何も話さなかったのであろう?」 シルヴァンは唇を血が出そうなほど強く噛んだ。 「夜宵に話さなかったのは、まだその時ではないと思ったからだ。だが今は……。兄上、夜宵に会わせてくれ。夜宵はどこにいる?王宮にはもう居ないのか?王都にはいるのか?まさか王都からも出てしまっているとか……」 掴んだレオナルドの肩をブンブンと揺すりながら話す様子に、レオナルドは口を結び俯き肩を小刻みに揺らす。 「……兄上?」 「――ぶふッ!あはは!はーあ!そんなにあの子のこと思っているのか?面白い。あのヒト族にそんなに入れ込んで、あの子に何があるっていうのだ?もしかして、ソッチの具合がいいとか?」 「……いくら兄とて今の発言は許しませんよ。取り消してください今すぐに」 「――っ!」 レオナルドが嘲笑を引っ込めてもシルヴァンの瞳にに滲む怒りは留まらず、レオナルドの肩を掴む手にもどんどん力が込められる。 「そんなにあの子のことが大事なんだ」 「はい」 「後悔するよ?」 「いえ。夜宵と番うことも、アリア嬢との婚約破棄も父上に認めてもらいました」 「……は?」 「夜宵にはここに来る前に番になって欲しいと頼み了承を貰っていますし、父上の了承も貰っています」 「それじゃあ今やってるのって全部無意味……?嘘でしょ……」 「兄上、分かっていただけたのなら早く夜宵の居場所を――」 「わかった、わかったから。僕が悪かったよ。ただ一つ約束してくれ。ヤヨイくんにちゃんと『番』について説明をするんだ。彼は何も理解していないよ」 レオナルドはシルヴァンを連れて夜宵がいる使用人棟の一つへと足を向ける。 使用人棟は二つあり、護衛騎士やメイド達が住まう居住区域となっていて騎士やメイドたちは皆ここに住み交代制で業務をこなしている。 レオナルドが向かった先は騎士たちの居住区域である使用人棟で、突き当たりの大きな扉の前で立ち止まる。 中からはガヤガヤと騎士たちの楽しげな話し声が漏れている。 その声に耳を傾けると微かに何を話しているかが聞き取れた。 「んんッ!もう、ダメ……!」 「また緩んでる。限界近いかぁ?……ほら、もっと締めろって」 「ん……くぅっ!」 聞き覚えのある声が中から聞こえてきて、シルヴァンはレオナルドを押しのけ扉を勢いよく開いた。 「夜宵!!!」 そこには複数の非番の騎士達が何かを囲って集まっており、その中心に夜宵と相手の獣人が居るようだ。 シルヴァンは駆け寄り集まった騎士たちをかき分け輪の中心に割り込んだ。

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