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第二章 獣人の国と少年 (十五-前)

シルヴァンが集まった騎士たちを掻き分けて進むと、気付いた騎士たちは次々に口を噤み姿勢を正す。 とうとう輪の中心にたどり着いたシルヴァンは夜宵の姿を見つけてまずは彼と騎士一名が繋いでいる手が目に留まった。 先程の声からしていかがわしいことをしているのではないかと予想していたのだが、そこでは腕相撲が行われており、余程集中しているのか夜宵はシルヴァンが来たことにすら気づいていないようだ。 腕を組んでいる騎士の方が先に気づき、小声で切羽詰まった声で何回か夜宵に声をかける。 「へ……」 力が入り切らない声で顔を上げるとようやく夜宵は周りの様子が目に入ったらしい。 パッと手を離すと一際(ひときわ)大きな声でシルヴァンの名前を呼んだ。 シルヴァンは夜宵の手を引いて椅子から立たせ、周りの騎士たちを睨みつける。 「これはどういうことだか説明してもらおうか」 「シルヴァン、これは……」 シルヴァンが周りに説明を求めたが、シルヴァンの鋭い眼光に怯み説明しようとする以前に体を硬直させることしか出来ずにいる。 すると部屋の入口の方から声が響いた。 「夜宵くんをこの場所に連れてくるように言ったのは私だよ」 騎士たちはその声に振り返り、礼をする。 「兄上……」 「やあ、退屈はしなくなったかな?」 「あ、うん。一人じゃないしね」 「それは良かった」 ニッコリ笑うレオナルドにシルヴァンはずっと不満げな顔を向けている。 レオナルドもその視線に気づいているもののあえて目を合わそうとはしない。 「あの、シルヴァンどうしたの?もしかしてしばらく向こうに帰らなかったの怒ってる?」 夜宵が恐る恐るシルヴァンの顔を覗き込むようにして話しかけると、シルヴァンの表情は苦味を増した。 「それはまあ、なくはない。が、兄上のせいだということはわかったから大丈夫だ」 「レオナルド殿下は僕が退屈しないようにここに――」 「違う」 シルヴァンは夜宵の言葉に被せるように否定し、夜宵はその圧に声を呑んだ。 「……兄上、何を企んでいたのですか」 「えー、心外だなあ」 「兄上」 声色がどんどん冷たさを増し、とうとうレオナルドも観念しというように両手を上げた。 「その前に場所を移そうか」 レオナルドの一声で場の空気は少しだけ緩んだような気がした夜宵は、相手をしてくれていた騎士たちに手を振りながらレオナルドとシルヴァンに続いて部屋を出た。 やってきた部屋はレオナルドの部屋だそうだが、夜宵が前回招かれた時の部屋とは違う部屋であり、今回の部屋の方が机に書類が乗ってたりソファの上にクッションが置かれていたりと生活感がありよっぽど信じられる。つまりあの部屋は本当のレオナルドの部屋ではないということであり、その時点からレオナルドは夜宵のことを騙していたことになる。 もしかしたらもっとずっと前からかもしれない、と夜宵はこの部屋に来てから感じ始めていた。 レオナルドの促しによりシルヴァンと夜宵はソファに並んで腰を下ろした。

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