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第二章 獣人の国と少年 (十八-後)

その声を聞いてか、ダイニングルームのドアの周りには、何事かと心配した使用人たちが集まってきてしまっている。 「なんの騒ぎだ?お前たち、自分らの仕事はどうした」 シルヴァンの一声で集まってきていた使用人たちは一斉に各々の持ち場に戻る。 ダイニングルームに目を移したシルヴァンは夜宵とレオナルド抱き合う様子に一瞬ぎょっとしたが、状況を理解したのか穏やかな表情で夜宵の後ろから夜宵とレオナルドをまとめて抱きしめた。 「あ、みそら……これは」 「いい。大丈夫だ。元々兄上はこうなんだ。最近は隠しているようだが兄上は泣き虫なんだ。……この話も今度ゆっくり聞かせてやる」 「それ聞きたい」 「んんん〜聞かなぐでいいよぉ〜!」 ギャンギャン泣き続けるレオナルドを横目にシルヴァンと夜宵は大声で笑った。 その後国王や王妃、アリアもダイニングに集まり国王と王妃から祝福をもらい、アリアからは精一杯の謝罪を受けた。 久しぶりに全員で穏やかに食事をとり、部屋に戻ろうとしたとき目元を泣き腫らしたレオナルドは夜宵を引き止めた。 「その、本当に君には悪いことをしたと思っている。僕はシルのことが大好きなんだ。だからこそ愛するシルが誰かと一緒になるなんて考えたくなかった。ただ、政治のため、家のためと理由があれば自分でも納得できていたんだ。自分の気持ちを優先するあまり君の気持ちを深く傷つけた。本当に申し訳なかった」 レオナルドは深々と頭を下げ謝罪した。 「大丈夫。レオナルド殿下の気持ちもちょっとだけわかる気がするから。それよりさっき名前、初めて呼んでくれたね。ありがとう」 そうだったか?と首を傾げたレオナルドに、夜宵は笑って肯定する。 「また呼んでくれると嬉しい、かな」 「あぁ、ああ!もちろんだよヤヨイくん!じゃあさ、僕のこともお兄様って呼んでくれないか!?」 目を輝かせた彼はとても無邪気に笑い戯けてみせた。 これが本来の、「第一王子」という殻を脱いだレオナルドの姿であり、シルヴァンの兄である。 お兄様、と控えめに呼んだ後お互いに照れてしまい、なんとも言えない空気になったところでシルヴァンによって離されたのだが、そののち数日呼んでは照れるこのやり取りが続くことになり城内の全員から目の保養になると噂されるようになるのだが、このときはまだ当人たちも知る由もない。 部屋に戻ったものの夜宵はどう話を切り出していいかわからずずっと落ち着かずそわそわしていた。 不思議に思ったシルヴァンにどうかしたのかと聞かれたがうまく答えられない。 考えた結果、夜宵は勢いのままシルヴァンの服を掴んでいた。 「ねえみそら、一緒にお風呂入ろう!」 驚いた顔をしたシルヴァンであったが、嬉しそうに頷いた。

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