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第二章 獣人の国と少年 (十九-後)
事件が起きたのは夜宵が十二歳になる頃、周りの同年代の子供達は初等教育も終わり、家業の手伝いをしたり更に多くのことを学ぶためにこの村を出て街に行くなどするようになったころ、夜宵はある話を正雄から持ちかけられていた。
見世物としてだけでなくその体を売ってもっと稼がないか、と。
夜宵の容姿は男児にしてはかなり可愛く、幼さ故か無邪気な笑みを浮かべることがある、と話題であり時折見世物小屋に来た客で「抱かせてはくれないか」と声をかけてくる客はいた。ただ当時の夜宵にはその意味が理解できず断る他なかった。
そんなある日、昨日まで元気だったはずの夜宵の母親が突如として床に臥せってしまったのだ。
村の人々は口々に獣人の子がヒト族である母親の体に害をなしていたのだ、全てこの子供の羽が悪い、と言いふらし始めたのだ。
それから程なくして夜宵の母は「生きて」とだけ遺言を残して息を引き取った。
最愛の母を亡くした夜宵の心は真っ暗な闇に飲み込まれてしまい、見世物小屋でも表情をなくし客足も徐々に減っていった。
母を亡くしてから一週間後、いつものように家へ帰ると家の中から不思議な臭いが漂っていた。
戸を開けてみると玄関には腐った野菜や魚、肉などが放り投げられていた。
よく見れば家の前にも張り紙がされており、字の読み書きをまともに習っていない夜宵が読めるはずもなかったが、筆跡の粗さから悪口が書かれているであろうことは察することができた。
いっそのこと母の後を追ってしまおうか、とも考えた。
しかし母が残した最後の願いは夜宵が生きることである。
ひとしきり涙を流し尽くし、生きる道として夜宵は正雄の提案を受けることに決めた。
その矢先、翌朝夜宵がいつものように正雄のいる見世物小屋へ向かう途中で、村の住人達が家から出て夜宵に視線を送っていることに気付く。
「やい!化け物!」
村の大人たちに気を取られているうちに夜宵の周りを村の子供達が取り囲んでいた。
「お前のせいで俺らの母ちゃんたちが病気になったらどうするんだよ!」
「この村から出てけ!」
その光景を目にしても誰一人として助けてくれず、時間になっても見世物小屋に夜宵が来ないを不審に思った正雄が村に来たことで夜宵は発見され、その時は既に夜宵の両腕は血まみれになっており、その日を境に夜宵が見世物小屋に来ることはなくなり、村から離れた場所で一人暮らすことになったのだ。
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