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第二章 獣人の国と少年(二十八-後)

 屋敷に戻ると早速二人は授胎薬に関して復習することにした。  一、毎日決まった時間に一日一錠内服すること。  二、初めのひと月は白色、ふた月目は桃色の錠剤を内服すること。  三、二ヶ月目に入ったら毎晩内服と共に体を繋げること。 以上だ。ひと月目の白い錠剤は副作用が――いわゆる悪阻のようなものが起こるため、注意が必要である。 「毎日決まった時間、か。いつくらいがいいのかな?」 「大体は寝る前辺りに飲むのが多いとヘドウィグは言っていたな」 「そっか。じゃあ、僕も寝る前くらいにしておこうかな。明け方くらいだね」  夜宵は小瓶の蓋に「寝る前」と書き記した。これで忘れないだろう。  そういえばもうひとつ、夜宵には気にかかることがあった。父親が獣人なのは確定している。が、何の獣人なのかということだ。夜鳥の里の里長なのだから、夜鳥の類なのだろうが、そういえば聞きそびれたな、と夜宵は思った。 「ねえみそら、夜鳥の里の里長って何の獣人か知ってる?」  シルヴァンは顎に指を添える。 「聞いた話にはなるが、フクロウだと言っていたはずだな」 「フクロウ……じゃあ僕もフクロウになれてた可能性もあったのかもしれないのか」  異種間での交配は、両方の特性が出るか片方の特性が出るかは生まれてみないと分からない。夜宵の場合は両方の性質を持って生まれたがために、ヒトとフクロウの中間になった。結果獣化は出来ず、飛ぶことすら出来なかった。――正確には飛ぶ練習などしたことがなかったからわからないのだが。 「産まれてくる子がフクロウっていう可能性もあるのかな?」 「あるだろうな。夜宵は半分でもフクロウの血が流れている。隔世遺伝も考えられるからな。恐らく産まれてくるのは狼、フクロウ、ヒト、ライオン、そして狼とフクロウのハーフの五択になるだろう」 「すごいね。何が産まれてくるのかな」 「楽しみだな」 「うん。……出来ればヒト以外がいいかな。ベスティアで暮らすなら、その方がいい」  夜宵はひとつ、欠伸をする。もういよいよ夜宵の寝る時間だ。 「今日から飲み始めようか、これ」 「そうだな」  夜宵は先程「寝る前」と書いた小瓶の蓋を開け、一錠手に取ると口の中へ放り込んだ。 

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