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― for present day. ―
「…これが、今までの僕が歩んできた人生なんですよ。……何かあった時の為に、日記に残しておいて良かったです」
そう言った芝崎は、開いていた日記をゆっくりと閉じた。
ずっと話を聞いていた俺はと言うと…語られた全ての真実に言葉を失う事しか出来なかった。…俺自身、まあまあハードな人生を送ってきた気持ちはあったけど、芝崎から聞いた話は俺の想像するよりも斜め上と言うか……まあこういう人間像が出来てしまったのも何だか分からなくもない気持ちになってしまったのだった。
「……何か…ごめん……。護の心の傷、せっかく治りかけてたのにね…。」
「いえ。もう随分と昔の話でしたから、今更感はありますよね。……けど、そういう過去がああったからこそ、今の僕達の関係も成立してる訳ですから、良いんじゃないですか?」
「そうは言ってもさぁ…」
「…『殿崎匠』という名の青年は、人間関係も性関係も自由奔放、自分が信じるものが全て。でも義理人情には厚い人でしたからね」
「……んで、護はどうだったの?」
「どうだった、とは…?」
「殿崎さんに対する気持ち。親友だけど、みわ子さんとの過ち…?で寝取られみたいな感じになっちゃって……でも、好きな人とは結ばれたって事だろ?」
「まあ、そうなりますよね」
「けど、殿崎さんとの関係も断ち切りたくなかった。……自分が一番大変だった時に助けてくれた人だからこそ、最後の過ちも何故か許せてしまった、みたいな?」
「許す、許さないというよりも…『あの当時はそうするしか最良の方法が無かった』、と言った方が正論かも知れませんけどね」
「…それは何で?」
「……分かっていたんですよ、お互いに。僕がみわ子さんとの協議離婚を選んだことも、彼が僕に対して行ったあの行為にしても。…それは…彼自身の気持ちが向いていたのが僕、だったから。」
「……え?」
「それはもうずっと昔から…言うなれば、専門学校に入学して初めて出会ったあの瞬間から、彼の気持ちはずっと僕だけを追いかけていた。…途中、みわ子さんやサークルの仲間達と出会って一緒に行動するようになっても……気持ちは、変わらず僕だけに向けられていたんです」
「……でも、みわ子さんとも付き合っていたんだよね?」
「そうですね。…でも、覚えていますか?みわ子さんが航太を身籠ったきっかけになった時の出来事を」
そう尋ねられて、俺は自分の思考を少しだけ戻してみて……気が付いた。
「…それって、みわ子さんがお酒で失敗した時の……!?」
「ええ、そういう事です。…彼はみわ子さんに将来の約束を誓ったんですが…その後、そのまま彼女の前には一切姿を見せなくなってしまったんです。……これがどういう事なのか、今の君なら理解できますよね?」
「…あー……それは……確か、に……。」
「当時のみわ子さんにとって、彼が取ったその行動は思いも寄らないものだったでしょう。……でも、その裏に隠された彼の本音を知ってしまったら、納得するしかない。
彼女はそういう人の心の僅かな動きや揺らぎに対しては非常に敏いんです。…だから、当時の僕が密かに抱いていた淡い感情も感じ取ってしまった。…それが君の言う、所謂『寝取られ案件』に繋がってしまった、という訳です」
「なるほどねぇ……。じゃあ逆に聞くけど、護自身は殿崎さんの事をどんな風に思ってたの?」
「最初のうちは『何だかいろいろと世話焼きな人だな』っていう程度のイメージでしたよ。母親みたいな感じで。……だけど時が経って、三人で共に過ごしていく時間が増えていくうちに……この関係はいつか崩壊するかも知れない。…そんな気持ちが芽生えました。…そしてこの『寝取られ案件』が端を発して、そこから連鎖的に様々なトラブルが続いて…。僕達三人の関係は完全に崩壊しました。みわ子さんとの協議離婚も含めて」
「……で、殿崎さんとの最後のアレも?」
「…ええ。恐らくそんな崩壊連鎖の出来事の一つ、ですよね」
「……。」
「それでも良いんですよ。確かにここまで僕自身、良い事も悪い事もありましたけど…。その多岐に渡る経験が、今の『君』という人生の伴侶に再び出会わせてくれた結果に繋がってますからね。……違いますか?」
「……時代は廻る…って事か。……あーでも俺、かつての幼馴染だったはずのアンタの事、すっかり忘れてたもんなぁ……。」
「それはね。……」
その言葉が終わらないうちに、俺は芝崎の身体に覆い被せられた。
――そして、いつもの優しいキス――。
「…ねえ、結真君。…今日の君は……どんな気分ですか?」
「……俺は……そんなあなたの強い気持ちに溺れたい。」
「……奇遇ですね。……僕もです。……でも……。」
「……?」
「……今日は、一緒に溺れましょうか。……お互いの心と、身体の……奥、深くまで。」
「…それは…良いですね。……溺れましょう、お互いに。……ね?」
――― Last Little Prayer. ~と或る男の、小さな呟き~ ――
~FIN. ~
「…結真君。…君には本当に驚かされますねぇ…。君には僕の心が見えているんですか?」
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