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第11話 前

スーツの男はご機嫌だった。 大切なデータが入ったカバンを両手に抱え、夜の街を歩いている。 このスーツの男は幸せな過去をすごしたわけではない。 ミスが原因で会社をクビにされ、借金まみれになった彼を家族は見捨てて去ってしまった。 絶望した男は借金の取り立てに脅える毎日を過ごしていた。 命を絶とうとした時もあった。 けれど臆病なその男はできなかった。 ある日、男が見つけたのは裏サイトだった。 そこでは盗撮を中心とした写真の販売が行われており、様々な人が自分の趣味に合う写真を高額で購入している場所だった。 それから男はこのサイトを利用し、盗撮した写真を販売していった。 借金もあと少しで全て返せる時、目に止まったのは最近噂になっている何でも屋のことだった。 全て上手くいった。そう思い、ご機嫌な男の前に現れたのは誤算だった。 その誤算は、さきほど別れたはずの男が自分の目の前に立って道を塞いでいること。 そして目の前に立っている男はニコリと笑った。 「森永さん、さっきぶりですね」 その笑顔に少しの恐怖を持ちながらも、落ち着いた様子で男は応える。 「エスポワールの店長さんじゃないですか。どうしたんですか?」 「いやー、データを消してもらいたいんですよ」 「データですか?なんのですか?」 「とぼけないでください。女装したうちの綾人が写っている写真のデータですよ」

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