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深い愛
「そうでございますか。トトとカカのお話を聞いたのでございますね」
帰りは僕の話を聞いてくれる夜彦。
でも、夜彦は大人の余裕を感じる笑みを浮かべている。
僕はちょっとショックを受けたのに。
「夕馬はトトが苦労人だったこと、カカが自分と同じ扱いを受けていたこと、そして自分の兄だったことが衝撃だったんでございますね」
僕の心を読んだかのように言うから、僕は目を見開く。
夜彦はいつものようにおほほと笑う。
「でも、貴方様は対応を変えようとは思われましたか?」
「ううん、僕の大切な両親にはかわりないから」
僕は自信なさげに小さく言ったのに、夜彦は偉いでございますねと言って頭を撫でてくれた。
「夜彦には特殊能力はあるの?」
ようちゃんは悪魔の目、真昼は予知とあるから、夜彦にもあると思ってはいたんだけど。
「私は人間の要素の方が強いので、強い力はないのでございますが……しいていうなら透視でございます」
ああ、だからさっき僕の気持ちがわかったんだ。
「心も身体もやつがれには丸わかりでございます。年々研ぎ澄まされてきておりますよ」
夜彦は僕をじっと見つめるから、僕は目を反らした。
「そういえば、貴方様の戸籍が残っているそうでごさいます」
「ということはやっぱり僕は殺されるんだね」
名前はもちろん、僕は何も知らない。
でも、きっと僕は御前なのだから。
当然のむくいだと受け止めるしかない。
でも、夜彦は笑いながら近づいてきて、髪を撫でてくれた。
「貴方様は我々に何をしたというのですか?」
僕は夜彦の穏やかだけど鋭さのある声で顔をバッとあげる。
「貴方様がやつがれを出来損ないだとバカにし、真昼の頭に傷をつけたのではないのでございましょう?」
僕は心が揺らぐ。
朝日家にとって、御前家は敵でしかないはずなのに。
それでも、夜彦は僕を許してくれるのか。
「まぁ、ようちゃんの赤い目に手を伸ばしたのが貴方様を生かそうと思ったきっかけでごさいました」
「あれは……僕にとって、天使の瞳だから!」
僕は強調するように声を張ると、ふふふと笑う夜彦。
「ようちゃんに好かれた貴方様が嫌われるわけがありません……貴方様は彼を支える方になるのでございます」
万生くんにもそう言われたけど、部外者な僕がなるのか不思議なんだ。
「真昼と夜彦はどうなるの?」
「ひるも賢いのございますが、型がはまったことはだいの苦手なのでございます。やつがれは文章に関することなら負けませんが、他はでんでダメなのでございまして」
全力でサポートいたしますので、というけど、僕よりはマシだと思う。
「あと、ここだけの話ですが……貴方様はとてつもない運をお持ちでございますから」
僕はわからなくて首を傾げる。
「やつがれとひる、ようちゃん吸血鬼の血を受け継いでおりますので、他人を吸血鬼にすることが出来るのでございます」
ほらと指を立てると、爪が黒くなり、指先から赤黒い血が飛び出てきた。
「ただ、多量に流すとそのものの細胞を壊し、灰にしてしまうのでございます」
夜彦はその指先を持ち歩いているメモ帳の紙に注ぐと、紙が赤黒く染まり、亀裂が不規則に入った後、ホロホロと焼けたように落ちていった。
「貴方様の傷があまりにも酷かったので、一か八かで血を注いだのでございます。でも、細胞が壊れてもすぐ再生いたしたのでございます」
「それは真昼と夜彦が何かしたからでしょ?」
「ひるが血を注いでおります時にやつがれが血を吸ってはおりましたが……神のご加護があったとしか思えないほど、早かったのでございますよ」
「いや、でも」
「お黙りなさいませ」
怒ったように言った夜彦は僕を抱き寄せ、口を塞ぐ。
舌を滑り込ませてきた夜彦に負けじと、夜彦の舌に絡めて唾液を流す。
「んっ……ハアッ、アッ!」
ジュッと吸ってから離れると、息を荒くする夜彦。
「貴方様には勝てませんね」
右手で口を拭いてから、頬を赤らめた。
「もう貴方様は出来損ないではございません。自分を認め、胸を張って生きてよろしいのでございます」
夜彦は口角を上げる。
「ようちゃんかひるが何か思うことがないとは言い切れませんが、やつがれには貴方様の明るい未来しか見えておりませんので」
夜彦は瞳をオレンジ色にした。
なぜか、僕の心がほんのりと温かくなる。
「大丈夫でございます。貴方様の選択は間違いないのでございます」
僕は勇気を貰った気がした。
僕は僕でしかないんだと。
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