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本当の意味
「彼女は御前家の次男で、『女の格好をするなんて病気だ、御前の恥さらし』と忌み嫌われていたんだ」
雷にうたれた気分になった僕はボウゼンとするしかなかった。
「前頭部を切られたり、物置小屋に隔離されたりしていたらしい。精神異常じゃないのにね」
『あら、私と一緒じゃないの』
そう言っていた本当の意味をやっと理解した。
「だから、百樹は自分の故郷に街を作ることにしたのさ……世間に見捨てられた方々を救うために」
万生くんはおだやかに微笑む。
「そして、文潟は20年の間に世界中で問題になっているものを解消した自由かつ最新の街へと成長したんだ」
キラキラと流れる曲と共に語られた話に僕は感動しつつ、とまどいを隠せない。
すごいことなんだけど、残酷すぎる事実がどんどん出てきたから。
「トトとカカがこの街を作った人なんだよね?」
「うん、それを支えたボクのパパとママは夕凪と苗字をもらったんだ」
少しずつ確認していくことにした僕の問いに優しく答えてくれる万生くん。
「カカが御前家の次男なら、僕の兄ってこと?」
「単純に言うとそうだけど、こう考えれば君の望んでいた通りさ」
僕の望み通り……?
「カカと君は血が繋がっている。だから、君の3人の兄たちとも血が繋がっている証拠になるんだよ」
僕はそれを聞いて、ハッとしたんだ。
「そして君は朝日家の一員だから、そのうちにこの街の重要な役目を務めることになるだろうね」
僕は思わぬ予言に動揺する。
「そんな、僕……出来損ないなのに」
自信がなくてうつむく癖は相変わらず直らない。
「この街には障壁なんて存在しないって教えたでしょ?」
トントンと肩を叩かれたから、思わず顔を上げる。
細い眉、一重の瞳、筋が綺麗な鼻、適度なバランスの唇を持つ万生くんの顔がとてもカッコよくて目を奪われそうになる。
「万生くんの方がカッコいいし、頭も良いから、きっと良い役職に就けると思うよ」
お世辞じゃなく、本当に思って言ったのに、鼻で笑う万生くん。
「そういう問題じゃないんだ」
万生くんは僕を抱きしめて、耳元でこうささやいた。
「暴れん坊……朝日陽太を嗜めるのは君しかいないんだよ」
僕は大きく身体を震わせた。
万生くんが右手を伸ばすと、1冊の本が本棚から自ら飛んできた。
「心理学の入門書を貸すよ……これはたぶん1日では読み切れないだろうけど」
ほどほどにしてくれよとため息を吐く万生くんにまた首を傾げた。
「首の痕、丸見えだから」
笑いながら首元を指差すからそこを押してみると、身体がズクンとうずいたんだ。
「午後は絵本を作っているんだってね」
コーヒーとフルーツサンドを食べながら、雑談をする万生くんと僕。
「僕を主人公にしていて、3人の得意分野を活かした作品なんだ」
日本みたいに卒業作品というわけではないんだけど、作って発表するのが今の僕らの夢なんだ。
「文潟の明日を担う四兄弟のものだからね……楽しみにしてるから」
「もちろん、最初にひろうするのは万生くんと志朗さんだよ! それは絶対だと夜彦と言ってるから」
ありがとうと微笑む万生くんを見て、僕は恵まれているなと改めて思ったんだ。
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