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第11話 両想い
翌週、二人の新しい部屋で過ごすことになった。お互いに目いっぱいに入れているアルバイトの予定をなんとか潜り抜けて日を合わせた。
咲太の両親は、お金の援助をしてくれるなら咲太は咲太の生活をそこで送ればいいよと言ってくれ、淳吾の言う通りにして良かったと思った。
「サク、おーい、一緒に風呂入るぞ」
「うん、でも……」
「変身?」
「うん」
「いいから、いいから」
淳吾に手を引っ張られて一緒にシャワーの前に立った。内心、淳吾が圭吾の姿になってしまうことにもう抵抗が生まれていた。
やっと淳吾のことを本当に好きになれたのに、違う姿だとやはり違う人のような気がしてくる……。
シャワーから勢いよくお湯が出て二人を同時に濡らした。咲太は目を閉じた。
「サク、目開けろよ」
「う、ううん」
「ほら、早く」
咲太は目を閉じたまま、シャワー音の中に淳吾の声を聞き取った。でもそれはいつもの淳吾のシルキーな声だ。咲太は目を開いた。目の前にいたのはお湯に濡れた淳吾だった。
「あ……ジュン……」
「へへへぇ、こういうこと」
「ど、どうなってるの?」
「もしかして圭吾を期待してた?」
「違うよ! バカっ、でもどうして」
「先週くらいから急に変身しなくなったんだよこれが。俺にもさっぱり」
「先週?」
「そう、サクを肩車した日くらいから」
「そうなんだ……」
「もしかして、両想いになったからかな?」
「え……っっ」
「いいよ、気使うなって」
「そんなっ」
「いいって。俺が変身してた日までは俺の片想いだったってわけなんだね」
「…………」
「だとしたら、この変身ってサクの気持ちを知るバロメーターになるってことだ?」
「…………な」
「サクが俺に気持ちを向けなくなったら俺は変身しちゃう。でもサクがちゃんと俺を愛してくれてたら俺は変身しちゃわない」
「そ……っ、んもう」
「へへへ。俺、この能力あって良かったわ」
「なんかずるいっ」
「なんで?」
「僕もジュンの気持ちを知るバロメーターが欲しい」
「はははっ。それは、いらないねっ」
「なんでよ」
「だって、俺の気持ちは永遠に変わらないから」
「そんなの分かんないじゃん」
「だとしても、俺はお前を変身させない自信がある」
「嬉しいけど、でも僕も変身したいっ」
「なんで」
「変身してジュンを困らせたい」
「うーん、ある意味困るな、それは」
「何、ある意味って」
「今のサクが俺にとってベストだから」
「んなことない。僕もモデル体型になっていろんな服着て楽しみたい」
「背が高くなるのはダーメ」
「なんでダメなの、いいじゃん、ジュンだって大きくなって楽しんでたんだし」
「とにかくサクはダメなのっ」
「なんで僕だけダメなのっ、てば」
淳吾は咲太の背中に優しく腕を回し、真剣な表情で顔を近づけてきた。
「俺が抱きにくくなるだろ」
「ジュ、ンんん……っんん……っ」
それ以上は言葉を出させないと言いたげに唇に蓋をされた。咲太も淳吾の背中に腕を回した。お互いの気持ちを代弁するように、熱い舌が狭い空間の中で饒舌に動き回った。
言葉よりもずっと速く気持ちを変身させてしまう甘い感覚が粘膜から伝わってきた。
シャワーの音と湯気が咲太と淳吾を守るように包み込み、二人だけの世界を作っていた。
(了)
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