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サイアクな選択②~side田畑~

 『優しくて穏やかな、よき上司』なんつー胡散臭い人格を演じているのは、同じFC課の金田君への当て付けと嫌がらせだ。  およそ七年前、会社に対して労働組合の組合長という立場を利用し、クーデターを企てた時の事。  直前で要求を全面的に受け入れられ、首謀者である俺は課長への昇進という形で無理矢理首脳陣の手により組合を追い出された。  出世と言えば聞こえはいいが、実際のところ、更迭されたに等しい。  ......今思い出しても、腹の立つ!  その際に、穏和の塊みたいな部下 金田君に、ガチギレされ言われたのだ。  金田君は嫌味ったらしく大きなため息を吐き出し、言った。 『これ以上上層部に楯突いて、更に昇進させられても俺、知りませんよ?  部長代理以上になると、役員会議にも出なきゃいけない。  会議とかそういう面倒臭いの、あなた大っ嫌いですよね?  絶対に、出たくないですよね?  研究に携わる事の出来る時間減らされるのも、嫌ですよね?』  グッ、と言葉に詰まっていると、更に追い討ちをかけるみたいに彼は続けた。 『大人なんですから、いい加減落ち着いて下さい。  あとね......この際だからついでに、言わせて貰いますけど。  田畑さんがビビらせるせいで、せっかく新人が入ってきても、すぐに皆辞めてしまうんです。  マジで俺らの事、過労死させるつもりですか?』  休みが全く取れず、完全に労働基準法違反な連勤続き。  流石に申し訳なく思い、謝罪の言葉を口にした。 『......すまん』 でもその後もネチネチ、ネチネチとしつこく責め立てられて。  ......最初は大人しく説教を聞いていたが、気付けば大声で叫んでいた。 『分かった、分かったよ。金田。  いや、金田君(・・・)?  これからはお前の望む通り、お優しい理想の上司ってやつを演じてやるよ。  それで、いいんだろうがっ!!』  それから俺は人格を偽り、『よき上司』なんてもんを演じ続けている。  その為それまでの悪行三昧を知っている連中からはメチャクチャ不気味がられているが、それはそれでちょっと面白いな、なんて思っていたりする。  どの道俺が大人しくしていたところでFC課の新人たちは、どいつもこいつも長くは続かなかった。  その理由は俺以上に理不尽で、女の武器である涙まで利用し、自身の要求を無理矢理力業で通す魔女 島崎 十和子君を前に皆、心がポッキリ折れてしまうからだ。  まぁおかげでメンタルが強くやる気のある人間のみが残っているから、結果オーライとも言えよう。

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