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第8話 いつもとは違う眼差し

 普段の伊上は飄々とした、捉えどころのない性格だ。少しずつ慣れてきたけれど、近しい天希でもなにを考えているか、わからないことがある。  それが今日に限って、ひどくわかりやすい顔をしていた。熱っぽい眼差しは雄弁で、見つめられるだけで胸が騒ぐ。  部屋に向かうあいだも、腰に腕を回されたり、すり寄られたりで、鳴り止まない鼓動がうるさくて仕方がなかった。  いまにも心臓がはち切れそうで、天希は視線を合わせないよう、必死で俯いた。しかし向けられる目が、まるで夏の陽射しのようで、首筋がじりじりとする。 「あまちゃん」  部屋の扉が閉まり、オートロックが作動したのとほぼ同時か、後ろから抱き込まれた。予想はしていても、力強い抱擁に容易く胸の音が跳ね上がる。  うなじに唇が触れ、大きな手に身体をまさぐられるだけで、天希は心臓が壊れてしまいそうだった。 「ま、待った。伊上、ここでは、ちょっ、……っ」  ふいに首筋に噛みつかれて、天希の口から上擦った声が漏れる。さらにその声を誘うように、伊上は服の下へ手を忍ばせてきた。  直に触れられると途端に肌が敏感になる。指先が滑らされるだけで熱を持って、じわじわとした心地よさが広がった。 「んっ、伊上、……やだ」 「そんなに嫌?」 「ぁっ、や、……やっぁっ、バカ、揉むなっ」 「あまちゃん、わりと胸が大きいよね」  肌を撫でる手が胸元までたどり着いて、伊上の大きな手のひらにもてあそばれる。それを止めようと腕を掴んだが、指先で胸の尖りをつままれて、天希は膝を震わせた。  崩れ落ちそうになる天希の身体を、抱き寄せた伊上は、一向に悪戯を止める気配がない。  首筋に舌が這うたび、指先が尖りをこね回すたび、肩を跳ね上げてしまい、天希は恥ずかしさに打ち震えた。 「やだ、マジ……で、やっ」 「いやいや言われるのも、なかなかいいね」 「バカ、バカ、マジで馬鹿! ぁっ、触んなっ」  するりと下りた手に股間を掴まれて、天希はとっさに身をよじる。だが力の入らない身体では、大した抵抗にならない。  そのままデニムのファスナーを引き下ろされて、侵入を簡単に許してしまった。 「ぁっ、あっ、やだ、そんなにしたら、出る」 「イクところ見せて」  腰に引っかかっていたデニムがずり落ちて、膝下に溜まる。ますます身動きができなくなった天希の熱が、伊上の手で剥き出しにされ、容赦なく扱かれた。  いきなり与えられた直接的な刺激に、足がガクガクと震え出し、止まらなくなる。 「あぅっ、……んっ」  思わずあられもない声を上げそうになり、天希は必死で自分の指を噛んだ。それでも興奮で上がった息が指先から漏れてくる。  声を殺せば殺すほど、伊上の手は天希を追い詰めて、わざと水音が鳴るように動かされた。その音が耳に響くほどに、羞恥と快感で身体が熱くなっていく。 「い、がみっ、やだ、も、出る」 「いいよ」 「ひぁっ」  その先を促すように先端を指でこじ開けられて、天希は声を抑えられなくなった。立っていることも辛くなり、必死で恋人の腕にしがみつく。  口先からは甘え縋るような声が漏れて、無意識に腰を揺らしていた。 「あ、あっんっ」  ビクンと腰が跳ね、吐き出された体液が勢いよく飛び散る。そしてぱたぱたとこぼれ落ちるものが、艶やかに磨き上げられた床を汚した。 「いっぱい出たね。気持ち良かった?」  肩で息をする天希の耳朶を噛んで、小さく笑った伊上は、きつく首筋に吸いついてくる。痕を残されたことに気づきはしたが、怒る余裕も抵抗する余裕もない。 「もう一回、イケそうだね」 「だ、駄目だっ、まだ、待って」  吐き出して萎えたはずのものが、伊上の手でまた芯を持ち始める。ぬめりを帯びて、先ほどよりも気持ちがいい。気づかぬうちに腰を突き出すようにしていて、天希は顔が熱くなった。 「あまちゃん、横、見てみて。すごくエッチだよ」 「え? ……っ、あっ、やだっ」  ふいに顎を掴まれて、横を向かされたそこには大きな姿見がある。  下半身を剥き出しにして、惚けた顔をしている自分が目に飛び込み、天希はとっさに目を背けた。  だが意地の悪い恋人は、それを許してはくれず、鏡に向かい合わされる。さらには真正面を向かされて、恥ずかしい自分の姿がそこに映し出された。 「いつもこんな可愛い顔して、僕におねだりするんだよ。たまらないよね」 「ふ、……ぁっ、やだ、恥ずかしいから、やだ」 「でも恥ずかしくて気持ち良くなってきた?」  鏡の中で薄く笑う伊上と目が合うと、天希の中にゾクゾクとした快感が湧いてくる。彼の手の内で、自分のものがどんどんと、硬さを取り戻していくのがわかる。  溢れ出してきた蜜がくちゅくちゅと音を立て、たまらず天希は熱い息を吐く。 「気持ちいい? すぐイケそうだね」 「伊上、これや、だ。俺ばっかり気持ちいいの、やだ。……したい」 「ん? あまちゃんはなにがしたいの?」 「うっ、……セックス、あんた、と、……セックスがしたいっ」 「ほんとに、たまらないね」 「んぅっ」  ため息とともに無理矢理に上向かされて、唇を塞がれた。舌をねじ込まれて、口の中で暴れるそれに翻弄される。  そのあいだも昂ぶりへの愛撫は止まず、天希は気持ちの良さに頭がショートしかけた。こぼれたものが太ももを伝う感触にも、興奮を煽られる。 「伊上、はやく」 「可愛いね。だけどそんなにいきなりは入らないよ」 「あっ」 「せめてちゃんとほぐしてあげないと、あまちゃんのここ、怪我するよ」  天希の身体を鏡に押しつけた伊上は、ヌルつくものを掬い、それを孔に塗り込めていく。そのたび少しずつ指が入り込んでくるのを感じ、天希は何度も甘い声を上げて鏡を引っ掻いた。 「すごい、もうヒクついちゃってるね」 「……もっと、奥、足りねぇよ」 「僕も早く入りたいけど、ちょっとだけ我慢して」 「ゆび、指だけ、でイキそ……」 「あまちゃんって、ほんとお尻いじられるの好きだよね」  必死で鏡にしがみついて、尻を突き出しながら腰を揺らしている。そんな自分には気づいていたが、天希の頭の中はそれ以上に、気持ち良さに埋め尽くされていた。  指を増やされて拡げられるだけで、そこがひくんと収縮する。  もっと太くて硬いもので、中を思いきり擦り上げられたい。めちゃくちゃに揺さぶられたい。  浮かぶのはそればかりで、いまどんな声を上げているのかも、わからなかった。 「ごめんね。ゴムとか用意してる余裕、ないな」 「んっ、こ、いちっ、紘一、はやくっ」 「それ、ちょっとずるい。可愛すぎて、困る」 「あぁっ!」  乱雑に腰を鷲掴みされると、一気に奥まで熱いものが入り込んできた。押し広げるように、ねじ込まれる質量で息苦しさを覚えるが、快感にメーターが振り切れる。  身体が跳ねるほど激しく揺さぶられて、天希の口からひっきりなしに嬌声がこぼれた。 「ぁっ、いい、気持ちいいっ……すげぇあつ、いっ」 「あまちゃんの中も、うねってすごく気持ちいいよ」 「んっ、なんか、いつもよりデカい」 「これ、一番奥まで挿れてあげようか?」 「やっ、駄目、あれ、おかしくなる、からっ」 「でも気持ちいいよね?」 「やだっ、当てんなっ」  ぐりぐりと最奥を切っ先で擦られて、天希は慌てて振り返る。押し止めるように伊上の腕を掴んだが、中への刺激をまったく止めようとしない。  それどころか泣きそうに顔を歪めた天希に、笑みを深くした。 「簡単に奥まで、抜けちゃいそうだよね」 「ひ、っ、やだ」 「あまちゃんのえっちな泣き顔を見てると、新しい扉を開きそうになる。お漏らしとか潮吹き、させてみたいよね」 「……ぁ、っ」  いまにも奥を広げて結腸まで入り込みそうな感覚に、天希は歯を食いしばった。鏡を掴む指先は白くなり、じわりと涙が浮かぶ。 「こら、唇を噛んじゃ駄目だよ。ほら、もうしないから声出して。……ほんと可愛くてたまらないな」 「ほんとに、もう、しねぇ?」 「うん、ちゃんと気持ち良くしてあげるから、いっぱい啼いてごらん」 「そ、いう、変態くさいこと、言うな。……や、ぁっ、そんなにしたら、すぐイ、クっ」 「何回でも気持ちよくしてあげるよ」  いつもより熱さを感じるもので、身体の内側を擦られるたびに、快感が込み上がる。遠慮の欠片もなく腰を使われて、天希は髪を振り乱して甘ったるい声を上げた。  気持ち良さで力が抜けると、再び鏡に身体を押しつけられる。 「ふ、ぁっ、……だ、めっ、……こう、いちっ、待って、激しいっ、あっぁっ、気持ち良くて、頭、ばかに、なる」 「こういうの、好きだろう? さっきから中、すごいことになってる」 「いいっ、きもち、いいっ、……ぁっ、やっ、イキそうっ」 「可愛い。いいよ、お尻だけでイってごらん」  うなじに噛みつかれた途端、快感の波がじわじわと押し寄せて、開きっぱなしになった天希の口から唾液がこぼれる。  チカチカと目の前で星が瞬くような感覚に、限界を感じる。それでも腹の奥に吐き出された欲の熱さに、天希は身体を震わせた。

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