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第14話 優しい恋人とおねだり
家に着くなり、またなし崩しに――そう予想していたのに、伊上は以前のようにがっつくことはせず、紳士的に天希を風呂へと促した。
少しばかり拍子抜けではあったが、別段あのシチュエーションが良かったわけではない。
たまに、くらいであれば、一方的にめちゃくちゃにされるのもいい。それはそれで盛り上がるものがある。
向こうがしたいと望めば、応えたい気持ちもあった。だが天希は、どちらかと言えばノーマルなセックスが好みだ。
「あまちゃん、なに見てるの?」
「ハンバーグのレシピ。予習してた。けど作るのは明日だな」
ベッドの上でタブレットを眺めていた天希は、聞こえた声に顔を上げる。すると風呂から上がった伊上が、上半身裸のまま近づいてくるところだった。
その姿を目に留めて、天希の胸はドキリと高鳴る。程よく鍛えられた男性らしい身体は、相変わらず色気すら感じた。
「予定は夜でもいい?」
「うん。……明日、怒られんの?」
「いや、大丈夫じゃないかな。あの人の長話を聞いて、ちょっとお酒に付き合ったら帰ってくるよ」
「そっか」
じっと見つめていると、傍まで来た伊上はベッドの端に腰かけて、天希の額にキスを落とす。くすぐったい感触に首をすぼめれば、首筋にキスが下りてきた。
「さっきから、そんなに見つめてどうしたの?」
「ん、格好いい身体してんなぁと思って。やっぱり俺もちょっと、鍛えたいかも」
「あまちゃんも綺麗に腹筋割れてて、いい感じの肉付きだよ。触り心地がいい」
「ぁっ、胸ばっかり触んなよ」
「あまちゃんのおっぱい、すごくおいしそうでいいよね」
Tシャツの上から、大きな手に胸を揉みしだかれて、天希は恥ずかしさに頬を染める。身体の割に胸が大きいのは、少しばかりコンプレックスだった。
鍛えると余計に発達してしまって、筋トレはほどほどくらいに、留めるようにしている。
「あ、あんまり揉むなっ」
「女の子みたいに大きくなったりするかな?」
「知るか! 馬鹿!」
徐々に伊上の手が遠慮がなくなってきて、Tシャツをたくし上げられた。柔らかな天希の胸を直に鷲掴みすると、彼は形が変わるくらい激しくもてあそぶ。
胸自体は性感帯ではないけれど、時折胸の尖りが手のひらで擦られると、甘い疼きを感じ始める。
「ん、……ぁ」
何度も押し潰すようにされて、天希は無意識に腰が揺れ、足をもじもじと擦り合わせてしまった。それに気づいた伊上に薄く笑みを浮かべられ、恥ずかしさが込み上がる。
「可愛いね。気持ちいいんだ?」
「ちがっ」
揶揄する恋人を睨み付けるが、まったく効果がない――どころか仰向けに転がされて、容易く自由を奪われた。
手にしていたタブレットがベッドから滑り落ち、視線を向けるけれど、すぐに彼へ意識を引き戻される。
濡れた舌先で尖りをくすぐられる、それだけでゾクゾクとしてしまい、天希は刺激を求めるように胸を突き出していた。
「あまちゃんはお尻の次に、ここが好きだよね」
「ひぁ、んっ……」
「可愛い声、出ちゃったね」
両方いっぺんに指先できつくつままれると、疼きが広がって身体をのけ反らせてしまうくらい感じる。
尖りをいじられているだけなのに、天希はスウェットを押し上げるほど熱を昂ぶらせ、じわりと股間にシミが広がった。
「やだ、そこ、……ばっかり」
「でも気持ちいいんだよね?」
少し痛いくらいに指先でこね回されて、天希の腰がビクビクと跳ねた。片方だけでも相当感じてしまうのだが、両方となると声が抑えられなくなる。
泣きすがるような天希の甘い声に、伊上は笑みを深くした。
「あまちゃんの声、ほんと可愛いな。乳首、そんなにいい?」
「……ふぁっ、ん、きもち、い、いけど。ぁんっ、なんで、そうマニアック」
「乳首責めはちっともマニアックじゃないと思うけど」
「んっ、もっとふつーなの」
「仕方がないなぁ。じゃあ一回これでイってから」
無理、そう言おうと思ったのに、指で押し潰され、小さな粒に齧り付かれただけで、下着がぐっしょりと濡れた。身体に気持ちがまったくついてきておらず、天希は自分の反応に驚く。
伸ばされた手に濡れたものを握り込まれて、初めて自分がイってしまったことに気づいた。
「あまちゃん、今日は随分と早いね」
唇を優しく塞がれ、吐き出したものを塗り込めるようにされて、また熱が昂ぶり出す。いつもはもう少し快感を味わう余裕があるのに、いまの天希は導火線に火がついたようで、優しく触れられるだけで感じる。
「変なことされてないよね?」
「へ、変なことって?」
ふっと恋人の声が一段低くなり、天希は目を瞬かせる。変なことをしているのはほかでもない彼だ。
だが言っているのは、そういうことではないのだろう。しかし快感で痺れている頭では、まともに考えごとができない。
「あのエロ親父どもに、変なことされなかった? 盛られてない?」
「……ん? あっ! ない、ない! なにもされてねぇよ。ちょっと変な雰囲気だったけど、あんたが来たし」
「へぇ、されそうな雰囲気はあったんだね」
「あ、いや、俺なんかをどうこうしようっていう物好きは、あんたくらいしか」
「あまちゃんはわかってないな。君ほど可愛い子、僕は知らないよ」
「ぁ、……ん、あんた、目が悪い」
ふいに首筋に唇が触れて、胸の音が駆け足をし始める。さらに愛撫するように身体の上を滑らされると、天希の肌は瞬く間に赤く染められていく。
普通がいい、という言葉を律儀に聞いてくれる恋人は、とことん天希に甘い。
唇の感触と、時折触れる舌の感触に、天希はうっとりと目を細める。さらに余すことなく身体を撫でられて、心地良い快感に肩を震わせた。
「これでも両目とも2.0あるよ」
「そういうことじゃねぇよ。……んぁっ」
小さく笑った天希を咎めるみたいに、尖りを囓られた。やわやわと歯を立てたあと、伊上はひくんと震えた天希の身体に、きつく吸いついて痕を刻む。
皮膚の薄いところに何度も繰り返されて、また増やされたのがわかった。最近の伊上はやたらと痕を残したがる。
そのおかげで、あの時キスマークを見られて興奮された――と、言うのは止めておこう。ぼんやり天希はそんなことを考える。
「僕は可愛いものと綺麗なものが好きかな」
「そういや、細身の美人が好き、なんだって?」
「……たまたま、そういうのが多かっただけの話だよ」
「ふぅん」
ここでそれは違うとか、そんなことはないんだとか、言い訳しないところが伊上らしい。だがそう言われたら、逆に気持ちがもやつく。
さっぱりしているこの性格が、天希は好きだなと思う。
「信じてないの?」
「そういうわけじゃねぇよ。……あっ、そこも、つけんの?」
するりとスウェットごと下着を脱がされて、太ももを掴まれる。這わされる舌にゾクゾクとすれば、内ももが震えた。
ここにつけられる時が、天希は一番感じてしまうのだ。その先を想像して唾を飲み込むと、付け根の傍にきつく吸いつかれた。
声を上げてしまいそうになり、天希が両手で口を塞げば、わざと何度もそこばかりに唇を寄せられる。
一体いくつ残すつもりだろう、そう思うほど触れられて、昂ぶったものからだらだらと蜜が伝い落ちた。
「あまちゃんの身体ってほんとにエッチだね」
「……あ、あんたが……そう、したんだろ」
「僕しか知らない身体って、そそられるね」
「なぁ、もう、挿れて」
「お尻、疼いてきちゃった?」
「はや、く、……ぁっ」
両脚を開かされて尻の奥を撫でられる。それだけで天希は期待が膨らみ、そこが疼くのが自分でもわかった。先走りでぬかるんだ場所に指を含まされると、さらに欲しくなる。
身を屈めた伊上に頬へ口づけられて、天希はその次を待った。だがベッドサイドの引き出しから、ゴムとローションが取り出される音がすると、腹の奥がキュンとし始める。
疼きが増す感覚に待ちきれず、自分で孔に指を這わせ、濡れたそこに天希は指を押し込めた。動かすたびにくちくちと水音がして、興奮が高まる。
「可愛いなぁ。我慢、できなくなっちゃったんだ」
「それ、早く挿れて」
スウェットの下で昂ぶっている、伊上の熱を前に天希は息を飲む。しかし早く欲しくて指を抜こうとすると、それを押し止められた。
じっと見つめてくる視線に、天希は身体が熱くなる。
「あまちゃんが自分でしてるところ、もっと見たいな。ちゃんと脚、開いて見せてよ」
「や、やだ」
「一人の時、そうやってしてるんだ? 続き、してごらん。僕へのプレゼントだと思って、ほら」
「そ、それ、ずるいぞ」
まじまじと見られて、とっさに膝を閉じようとするが、それを制されて、また脚を開かされる。欲を浮かべた眼差しに、天希は身体が火照ってたまらなくなった。
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