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プロローグ
毎日が同じで、特に良くもなく不可もない。それが不満とも思わない。
そろそろいい年だし、身でも固めようかと思っていた矢先の話。
仕事が終わって帰宅したら、玄関前に俺の旅行用鞄が置いてあり、それにはメモが貼ってあった。
『貴方の荷物置いておきます』
「……え?」
インターホンを鳴らしても、ドアをノックしても応答がない。俺は、スマホを取り出し相手に電話を掛けた。
「もしもし、真由 」
『ああ、拓巳 』
「これどうゆーこと?」
『言うの忘れてたんだけど…部屋の契約切れで、でね…拓巳とも終わりにしようと思って』
「なっなんで?」
『……もしかして結婚とか考えてる?』
「君がしたいなら……」
スマホ越しに由真の大きな溜め息が聞こえた。
『拓巳はどうなの?』
「え……どうって」
『貴方は私じゃなくてもいいのよ。運命だと思ったんだけど……貴方はそうじゃないでしょう?』
何か言わなくてはと思うのに、何も出てこない。なんとなく結婚するんだろうなって考えると同時に、そういうの面倒だなとも思ってた。
『……何も言わないのね…じゃお元気で』
「ええっ、あっ、ちょっと」何も言えないまま通話が切れた。
正直、ちょっとホッとしてるなんて……
「最低だな……俺……寒っ」
雪……?
夜空から綿毛みたいな雪が降って来た。ここで数年暮らしたきたはずなのに、こんなに物が少なかったのかと思いながら、放置されていた鞄を肩に掛けた。
「……積もるんかな。ビジホでも探すか」
俺は、 空から降ってくる冷たい雪を眺め鼻を啜った。貼ってあったメモをもう一度見るとそれを片手で握り潰し、コートのポケットに突っ込んだ。
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