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運命なのかは後にして㉒
仕事を終え、帰宅したのが何時だっか記憶にない。今朝の症状に加え、頭痛と寒気で電車で帰る気力がなく、タクシーに乗ったまでは覚えていた。
取り敢えず、眠れば良くなる…そう思ってベッドに潜り込んだ。
寒い……喉渇いた……連絡しねぇ…とな……
俺は、近く置いてあったスポーツドリンクを飲んで喉の渇きを潤した。寝汗で気持ち悪いスエットを着替え、またベッドに身体を預け掛布を頭から被った。
うるせ…な…なんだよ……
俺は、耳元で鳴るスマホの音を消した。体調崩して、何日経ったのかずっと熱が下がらない。朦朧としながら誰かと会話をした記憶があるのは、島野部長だったか____
腹減った……
玄関でインターホンが鳴った。起きる上がる気力かなく、このままやり過ごそうとしたが、もう一度インターホンがなった。
仕方なく、重い身体を起こし玄関先まで後少しの所で、今度はドアをノックする音が聞こえた。
「中條先輩……」
土師……?
その声を聞いて身体が先に動いた。鍵を開けドアを開けた。
「土師……」
「……中條先輩!」
ん……なんかいい匂いがする____
「……腹減った」
あれ? いつ着替えた? 額に冷え○タ?
「先輩…起きました?」
「……土師? なんでここに居んの?」
「部長命令です。先輩の様子見てこいって…まぁ、言われなくてもその予定だったんで……先輩、ドア開けるなりぶっ倒れたんですよ」
「……ごめん…迷惑掛けて」
「ってゆーかここ引っ越して大分経つのに、なんでこんなに生活感ないんです? 電子レンジも買ってそのままって一体あんたは何やってんすか?」
色恋事で何も手に付きませんでしたなんていい年のおっさんが言えません!
「病人に向かって辛辣だな…だから…来て欲しくなかったんだよ」
「心配してるんですよ! どうりで家に来るの嫌がったわけだ」
「ちゃんと整えてから呼びたかったんだ」
「体調壊すくらいなら俺を呼んで欲しかった」
「……おまえ怒ってたじゃねぇか…メッセージの返事も返ってこないし」
「え? 俺返しましたよ」
「えぇ!?」
あっもしかして俺…仕事用の方に送ってたとか?
俺は、スマホをタップしてもう一度確認した。俺が間違えて仕事用の方にメッセージを送っていて、土師はプライベートの方へ返事を返していた。
しかも、通知OFFになってるし気付かなかった……不覚!
「マジか……」
「あれは、俺も悪かったです。先輩のデリカシーのなさは知ってましたけどこれ程とは……」
うっ言葉が刺さる……
「どうせ…この食器とか使わないから持ってってとか言われたんでしょ……」
え? なんで分かんだ? 土師はエスパーか?
確かに、土師が持ってる食器は以前、別れた恋人が好きだった柄だ。別に使えればなんでも良かったし特に気にしてなかったが……
「……土師くんってそーゆーの 気にする人?」
「え?! マジで? え?! って最近会った?」
「ああ、引っ越し先まで荷物取りに来いって言われたからレンタカー借りてさ…なんの嫌がらせだよ」
「聞いてない…それマジで言ってる?」
「あれ? 言わなかったっけ? 先週の金曜日だったか…夜遅かったし」
「……へぇ、信じらんね」
……怖っ! 何怒ってんだ?
土師は、持ってる食器をじっと見ている。取り敢えず俺は、土師の側にいって持ってる食器を手から取り上げた。
「なぁ……さっきから何怒ってんの? それ食っていい? 俺…腹減って腹減って」
「……俺帰ります」
「もう帰んの?」
「あんたは…仕事以外、動いてない脳みそフルに使ってよく考えろ! 本当…ポンコツ!」
「はぁ!? だから、さっきから何怒ってんだって! 意味分かんねぇ!」
「あんたは風邪で一回死ねばいい!ハゲ!」
「まだハゲてないわ! ったくなんなんだよ!」
土師は、悪態を吐いて本当に出て行った。俺は、土師の作った玉子粥をさっきの食器によそって一口食べた。
「……旨っ! つーか土師のやつ…何怒ってたんだ?」
あっもしかして…また、なんかやらかしたか?
「はぁ……なにやってんだ俺は…つーかこれ旨過ぎだろ…天才か!」
土師が作ってくれた玉子粥を完食し、冷蔵庫に入っていたプリンも美味しく頂いてから土師にお礼のメッセージを送った。既読にはなったが返事は返ってこなかった。
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